2016/11/1
オバマケアは「皆保険」ということは知られているが、その実態がどうなのかという生の声は少ないといえる。『週刊医学界新聞』(医学書院)に短期連載されている「オバマケアは米国の医療に何をもたらしたのか?」という記事は、見事にその実態を浮かび上がらせている。筆者は、米国ハーバード公衆衛生大学院(医療政策管理学)リサーチアソシエイトの津川友介氏だ。一部を紹介する。
アメリカの医療制度のトピックの一つが、1965年のメディケア(高齢者向け)・メディケイド(貧困者向け)の導入だろう。その2つがいわゆる公的保険で、その他に民間医療保険の3つで成り立っている。税金を納めてきた米国民は65歳になれば自動的にメディケアに加入することになる。メディケア・メディケイドが導入される前には25%近くあった無保険者が、導入によって16%にまでに減少した。そして、2010年にオバマ大統領が導入した「国民皆保険制度」によって、2015年には無保険者は9.1%にまで減少した。数にして2000万人もの人が公的保険の対象となったのである。
オバマケアによって新たにカバーされた人たちの多くは、保険料を支払うことが困難な貧困者であったが、その財源をどうするかが大きな課題となった。そこでオバマ大統領がとった政策は、医療保険会社や病院などの医療関連業界に、相応の負担をしてもらうというものであった。医療保険業界には利益率の上限が設けられ、保険料総額の80~85%を医療サービスとして償還しなければならなくなった。それ以上の利益を上げた場合には、その利益を被保険者に払い戻さなければならない。こうした厳しい処置を保険会社が受け入れたのは、オバマケアによって民間医療保険加入者が増えると見越したからである。
津川氏は、オバマケアは経済的にゆとりのある医療機関、医療保険業界、高所得者から財源を集めて、貧困者の医療保険をカバーするという大きな改革で、社会格差を縮める政策であったと評価している。オバマケアで達成された医療保険の格差是正が、新しい大統領のもとでどのように変わっていくのか、わが国の将来への道標としても注目していきたい。
詳しくは、下記の医学書院Webサイト参照
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03195_01
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