2016/11/25
「肺非結核性抗酸菌症(以下、肺NTM症)」という疾患をご存知だろうか。「抗酸菌」というのは結核の原因となる菌のことで、結核菌群と非結核性抗酸菌に分けることができる。その中の結核菌とらい菌を除いた非結核性抗酸菌による感染症が肺NTM症である。肺NTM症は、初期には無症状だが進行すると、次第に咳、痰、血痰、発熱、倦怠感、体重減少など、結核と似た症状がみられる。胸部X線検査やCT検査などで異常が発覚することもあり、早期発見のためには定期的な検診が必要である。
慶應義塾大学医学部感染制御センターの長谷川直樹教授らは、国内における肺NTM症の罹患率が、7年前と比較して急増していることを報告した。非結核性抗酸菌は、肺に感染して慢性呼吸器感染症を引き起こし、重症化すると死の転帰をとることもあるという。肺NTM症は感染症法に指定されていないため疫学的実態が明らかにされていなかったが、7年ぶりのアンケート調査により、この実態が判明した。肺NTM症と結核との大きな違いは、ヒトからヒトへ感染せず、病気の進行が緩やかであるにもかかわらず抗菌薬による治療が難しいことだ。確実に有効な治療がないため、患者数は蓄積され、重症者も多くなってきているという。
同教授の調査に基づいた、最近約40年間の肺NTM症の罹患率の変化を示したものが図1である。2007年~2014年の7年間で、肺NTM症の罹患数は2.6倍に増えており、推定罹患率は10万人当たり14.7人に達している。諸外国の罹患率をみると、最も高い米国で10万人当たり5.5人、オーストラリアでは3.2人に過ぎないことから、わが国の罹患率が世界でも最も高いことがわかった。患者数の急激な増加の要因は、医療従事者の間で認知度が向上したこと、高齢化が急速に起こっていること、診断精度の向上・検診機会の増加などが考えられるが、明白な理由は不明で、今後の研究が待たれるところが多いという。
図1 肺NTM症罹患率の年次推移(1971-2014)
詳しくは、下記の慶應義塾大学Webサイト参照
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