2017/01/13
“ハイフローセラピー”というのをご存じだろうか。-酸素療法では治療効果が不十分だが、NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)は嫌がる患者が多い–そんなとき導入されるのがハイフローセラピーである。ハイフローセラピーは、高流量(30~60L/分)で高濃度(21~100%)の酸素を鼻カヌラから投与する新しい原理の呼吸管理方法のことだ。従来の酸素療法と比較して高精度な呼吸管理が行える上に、飲食やコミュニケーションも可能で、患者の不快感も少ないためQOL維持の上でも有用だ。ここ数年ICUや救急外来などの現場を中心に使用が増えてきており、2016年度の診療報酬改定で、急性呼吸不全に対する治療法として1日160点の加算が算定できるようになったため急速に伸びている。看護師向け専門雑誌『エキスパートナース』2017年1月号では、いち早くこの新しい呼吸管理法を取り上げている。
酸素療法には“高流量システム”と“低流量システム”があり、成人の場合30L/分以上の混合ガスを供給できるのが“高流量システム”である。“高流量システム”には、ベンチュリーマスクやネブライザー付き酸素吸入装置があるが、このハイフローシステムはその中で唯一最大60L/分までの流量を調整でき、高濃度(21~100%)の酸素を鼻カヌラから投与できる。
通常、鼻腔から上気道にはCO2を多く含んだ呼気ガスが貯留する死腔が存在するが、ハイフローセラピーでは高流量の酸素を投与し続けることで、鼻咽頭に貯留した呼気ガスを外に排出することができる。上気道も酸素の豊富なガスで満たすことで1回肺胞換気量を増やすことができるため呼吸効率が上がり酸素化が改善される。また、加温加湿器によって十分に加湿した酸素ガスが供給できるため、高流量、高濃度の酸素であっても、鼻腔粘膜の乾燥に伴う疼痛や障害を極力回避できる。加湿することで気道粘膜の線毛機能を高めて痰を出しやすくする効果もあり、気道分泌物が多い患者には、より適していると言える。
ハイフローセラピーは病棟での使用も増えているが、その適応を示したガイドラインはない。そこで、牧盾氏(九州大学病院集中治療部助教)はハイフローセラピーの生理学的効果から適応となる病態を解説している。「ハイフローセラピーは表1に示すような生理学的特徴があり、低酸素血症や高二酸化炭素血症の改善に効果的なため、Ⅰ型あるいはⅡ型急性呼吸不全に適しています。また、粘液線毛機能が障害された慢性呼吸不全の急性増悪においても効果が期待できます」(同誌、p79)
表1 ハイフローセラピーの生理学的効果
2015年1~3月に全国22施設で行われた「ハイフローセラピーの使用実態に関する多施設共同研究」では、332人(平均年齢76歳)の使用例の内訳は、間質性肺炎(22%)、細菌性肺炎(14%)、心原性肺水腫(14%)、胸部術後(10%)。その他にも、さまざまな疾患による呼吸不全に対して使用されていたという。牧盾氏は、「ハイフローセラピーは簡便に使用でき、呼吸不全の治療や術後患者さんの呼吸管理に有用で、適応も拡大しています。しかし、適応や中止判断を誤ると、かえって予後を悪くする危険性を持っています。慎重に適応を判断し、開始後の評価を怠らないように注意して使用してください」と述べている(同誌、p83)。
引用元:『エキスパートナース』2017年1月号特集『注目 これから増えていく! 「ハイフローセラピー」って何?』.照林社,2016.
同誌はアプリでも購入可能
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