2017/02/09
知的障害を持った子どもに対して、主に統合失調症の治療薬である“抗精神病薬”が処方されている実態が明らかになった。これは、『精神神経学雑誌』に掲載された「知的障害児に併存する精神疾患・行動障害への向精神薬処方の実態―大規模レセプトデータベースを活用したコホート研究―」という論文で明らかにされた(精神神経学雑誌 118: 823-833, 2016)。同研究は、奥村泰之氏(一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構研究部)が、井上祐紀氏(横浜市南部地域療育センター)、藤田純一氏(公立大学法人横浜市立大学附属病院児童精神科)らと共同で行ったものだ。
同研究では、株式会社日本医療データセンターが構築している健康保険組合加入者162 万人のレセプトデータベースを用いて、コホート研究により分析した。この中で、知的障害児2,035人のうち365日間の観察期間内に統合失調症の治療薬である抗精神病薬が1回以上処方された児は12.5%、抗不安薬・睡眠薬を処方された児は12.4%あった。その他、ADHD治療薬(4.8%)、気分安定薬(2.4%)、抗うつ薬(1.8%)、抑肝散(1.1%)と続いている(図1)。
図1 薬剤別年間処方割合
さらに、抗精神病薬の年間処方日数(中央値)は、3~5歳で142日、6~11歳で300日、12~14歳で296日、15~17歳で321日、全体で306日となっており(図2)、年齢の上昇に伴って増加していた。抗精神病薬の多剤処方割合も3~5歳では10%であるのに対して、15~17歳では24%と、これも年齢が高くなると増加していた。
図2 抗精神病薬の年間処方日数
一般人口における統合失調症の有病率は0.3~0.7%程度であること、統合失調症の発症年齢は10歳代後半から30歳代中半であるにもかかわらず、この調査によると6~11歳の段階で10%以上の知的障害児に抗精神病薬が処方されている実態が示されている。これらの結果を踏まえて同研究では、知的障害児に処方されている抗精神病薬は精神疾患の治療のためではなく、行動障害などの治療のために使われている可能性が高いと分析している。
世界精神医学会による診療ガイドラインでは、行動障害の背景に精神疾患が認められない場合は、環境調整や行動療法などの非薬物的対応を第1選択とするよう推奨しているという。また、無作為化比較試験のメタアナリシスで、行動障害が認められる知的障害児に対する抗精神病薬の使用が、体重増加などの副作用発現リスクを増加させることが示されているという。
同研究グループでは、医療場面や教育場面での支援者に対して適切な支援のあり方を普及するため、知的障害児に対する行動障害の診療ガイドラインの整備や、より安全な薬物療法の担保へ、副作用のモニタリングなどの制度化が求められているとの見解を示している。
・『精神神経学雑誌』の同記事は、下記の精神神経学雑誌Webサイト参照
https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=abst&vol=118&year=2016&mag=0&number=11&start=823
・医療経済研究機構のPress Releaseは、下記の医療経済研究機構Webサイト参照
https://www.ihep.jp/news/popup.php?dl=819
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