2017/04/27
「メタボ健診を受けていれば長生きできるのか」「テレビを見せると子どもの学力は下がるのか」「偏差値の高い大学へ行けば収入は上がるのか」―これらの質問にどう答えるだろうか。経済学の有力な研究によると、これらの答えはすべて「NO」だという。ダイヤモンド社の新刊『「原因と結果」の経済学』(中室牧子・津川友介著)は、経済学を題材にしながら、公衆衛生学、臨床疫学のわかりやすい解説書になっている。それもそのはず、著者の一人、津川氏は現在ハーバード公衆衛生大学院のリサーチアシスタントであり、聖路加国際病院での臨床経験もある医師だからである。
この本では、さまざまな例を挙げて、「因果関係」と「相関関係」の違いを明らかにしている。「因果関係」とは、「2つのことがらのうち、どちらかが原因で、どちらかが結果である」状態、「相関関係」とは、「2つのことがらに関係があるものの、その2つは原因と結果の関係にないもの」のことである。この「因果関係」と「相関関係」を混同してしまうと、誤った判断をしてしまうことになる。
たとえば、「メタボ健診を受けていれば長生きできるのか」という問いかけ。メタボ健診によって自分の健康状態を知り生活習慣病を予防したり、隠れた病気を発見できれば長生きになる、と思っている人は多いだろう。しかし、「メタボ健診を受けているから長生きできる」(因果関係)のではなく、「メタボ健診を受けるぐらい健康に対する意識が高い人だから長生きできる」(相関関係)という考え方もできるだろう。
それでは、「因果関係」を証明するためには何が必要か。それが「反事実」であると、著者は言う。反事実とは、「仮に○○をしなかったらどうなっていたか」という、実際には起こらなかった「たら・れば」のシナリオのこと。メタボ健診の例で言えば、「仮にメタボ健診を受けなかったら、どうだったか」という問いかけである。確かに、「メタボ健診を受けなかったら長生きできなかった」という「反事実」は検証できないだろう。こうした考え方は、臨床疫学の大きな要素の一つだ。近年、医療の中で強調されている「EBM(エビデンス・ベースド・メディシン)」「EBP(エビデンス・ベースド・プラクティス)」の“エビデンス”とは、「因果関係を示唆する根拠」のことだからである。
この本では、日常生活の中で、あるいは日常臨床の場で、「因果関係」と「相関関係」の違いを理解し、「本当に因果関係があるのか」を考えるトレーニングをしておけば、思い込みや根拠のない通説にとらわれることなく、正しい判断ができると強調している。医療の現場は、まさに臨床判断の積み重ねで成り立っている。こうしたロジカルな思考方法が最も求められる場ともいえるだろう。
中室牧子・津川友介著:「原因と結果」の経済学
出版社:ダイヤモンド社
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