2017/05/25
2015年10月からスタートした医療事故調査制度の結果に基づいて、医療事故調査・支援センターが専門分析部会報告書をまとめた。制度開始から1年3か月後の2016年12月までの院内調査結果報告書は226件、その中で事故の重篤性からみて再発防止の第一報としてまとめられたのが、「中心静脈穿刺合併症に係る死亡」だ。件数としては10件と少ないが、死亡する事態に至る重大性に鑑みている。
中心静脈カテーテル挿入は、医療機関の規模にかかわらず多くの診療科において日常的に行われているが、この手技に関連した医療事故が後を絶たないという。報告された院内調査結果報告書226件のうち中心静脈カテーテルに関する死亡は12例だが、そのうち10例が中心静脈穿刺に伴う合併症だった。
上記10事例中7例の患者は、肝硬変、骨髄異形成症候群、播種性血管内凝固症候群などの併存症や抗凝固薬・抗血小板薬等の影響によって血液凝固障害を認めたものであり、うち3例は慢性腎不全で維持透析の患者であった。穿刺合併症として血管損傷が一定の頻度で起こり得るが、出血リスクを有する患者に血管損傷をきたすと、止血の対応が難しく致死的となるリスクが高いことが確認された。
代替として提案されているのがPICC(peripherally inserted central catheter:末梢挿入型中心静脈カテーテル)で、穿刺の安全性が高いことが報告されている。しかし、PICCの選択については、どの症例でも検討されていなかった。適応を合議で決めたのは10例中5例であるため、PICCも含めてより安全な方法による代替も含めて合議で慎重に決定することが提言された。
また、中心静脈カテーテル挿入手技については、従来のランドマーク法に比べてカテーテル留置の失敗が少ない“リアルタイム超音波ガイド下穿刺”が推奨されている。学会・企業等へ期待(提案)したい事項として、「将来的には超音波のピットフォールを踏まえた、リアルタイム超音波ガイド下穿刺シュミレーショントレーニングの教育カリキュラムを確立し、医師がそれを受講するというシステム構築が望まれる」と一歩踏み込んだ提言もされている。
このほかの提言として、①留置したカテーテルから十分な逆血を確認することができない場合は、そのカテーテルは原則使用しないこと、②穿刺時にトラブルがあった場合などを含め、医師と看護師はこれらの情報を共有し、患者の状態を観察すること、③合併症が発現したときに迅速に対応できるように他の診療科との連携体制の構築や転院に関するマニュアルの整備をすること、等を要望している。
中心静脈カテーテル穿刺については、日本静脈経腸栄養学会の「日本静脈経腸栄養ガイドライン」でも、「穿刺時の安全性の面からは、PICCの使用が推奨される。(推奨度BⅢ)」「穿刺回数を減らして機械的合併症を減らすためには、エコーガイド下穿刺法が有用である。(推奨度BⅠ)」などと示されており、今回の提言は、エビデンスに沿ったものであることがわかる。
詳しくは、下記の各Webサイト参照
・日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)
「医療事故の再発防止に向けた提言第1号 中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析-第1報-」
https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/publication/teigen-01.pdf
・日本静脈経腸栄養学会
「静脈経腸栄養ガイドライン-第3版-」
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/PEN/Parenteral_and_Enteral_Nutrition.pdf
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