2017/07/12
2017年4月に開催された日本呼吸器学会学術講演会で、同学会が公表した「成人肺炎診療ガイドライン2017」では、誤嚥性肺炎や終末期肺炎などの治療アルゴリズムの中に、個人の意思やQOLを考慮した治療・ケアの内容が盛り込まれている。当ガイドラインは、25のクリニカルクエスチョン(CQ)を設定している。内容は、CAP診断・治療12項目、HAP/NHCAP9項目、予防4項目である。肺炎診療の課題として、薬剤耐性菌の蔓延を抑制すること、限られた抗菌薬を有効に使っていくことなどの視点が重視されて記載されている。
従来の肺炎診療ガイドラインは、成人市中肺炎(CAP:community acquired pneumonia)、成人院内肺炎(HAP:hospital acquired pneumonia)、医療・介護関連肺炎(NHCAP:nursing and healthcare associated pneumonia)という肺炎の病型ごとの3つのガイドラインが作られてきたが、「成人肺炎診療ガイドライン2017」はそれらを1つにまとめたものだ。病型ごとの分類では、「院内肺炎(HAP)」「医療・介護関連肺炎(NHCAP)」と、「市中肺炎(CAP)」とで分けている。これは、患者の居場所や患者背景によって分類したものである。本ガイドラインでは、治療方針のポイントとして以下の3点を挙げている。
①終末期や老衰状態ではないか、誤嚥性肺炎を繰り返していないか
②耐性菌リスクを有していないか
③重症度が高いか、敗血症ではないか、予後不良ではないか
「終末期や老衰」状態の患者は、介護施設などに入所していたり、入退院を繰り返していたり、自宅では全身状態が悪く寝たきりであったりという状況が想定されるため、NHCAP、HAPが主体である。さらに耐性菌リスクについては、国内での耐性菌の頻度についてシステマティックレビューを行うと、HAPとNHCAPで耐性菌リスクは高く、CAPでは低いことがわかった。そのため、当ガイドラインでは、CAPとNHCAP/HAPの2つに大別して、診療の流れを提示することにしたという。
NHCAPとHAPでは、さまざまなファクターを考える必要があり、まず、原因菌や重症度評価よりも先に患者背景として「誤嚥性肺炎のリスクの判断」「疾患終末期や老衰状態の判断」について検討する。「易反復性の誤嚥性肺炎のリスクあり、または疾患終末期や老衰の状態」の場合は、「QOLを重視した治療・ケア」を行うこととされた。このように患者背景を先に考える方針となった背景として、高齢者の肺炎診療においては、抗菌薬による治療が必ずしも功を奏しているわけではないという実態がある。さらに、高度認知症がある施設入所者で肺炎を発症した患者を対象とした観察研究では、高齢者肺炎に対する抗菌薬の投与は、生命予後は改善するもののQOLは有意に低下というデータも示された1)。
「個人の意思やQOLを重視」した診療の在り方では、①患者本人の意思決定を基本とする、②医療行為の開始・不開始、中止などは医師一人で判断するのではなく、多職種の医療ケアチームで慎重に判断する、③患者・家族の精神的・社会的な不安も含めた「総合的な医療及びケア」を行う、などの原則にのっとっている。
『成人肺炎診療ガイドライン2017』
4,860円(送料込み)
日本呼吸器学会から直接販売(下記サイトへ)
http://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=94
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