2019/7/19
転倒・転落はどのような環境にあっても最も起こりやすいインシデント・アクシデントであり、看護師の関心は高い。一般病床における転倒・転落発生率は1日1,000床あたり1.5件程度とされており、加齢とともにその発生率も高くなるといわれる。そのため、院内での転倒・転落予防対策は医療安全上の重要課題の1つである。
日本医療安全調査機構は、「入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析」を公表した。本分析では、2015年10月~2018年12月に同機構へ報告された事例のうち、11の頭部外傷による死亡事例を扱っている。同センターは、院内における医療事故の再発防止に向けた対応として下記8つの提言をまとめているので紹介する。
■転倒・転落後の診断と対応
提言1:
●転倒・転落による頭部打撲(疑いも含む)の場合は、明らかな異常を認めなくても、頭部CT撮影を推奨する
【ポイント】
本人の訴えや頭部の皮膚所見の有無にかかわらず、急激な血腫増大による頭蓋内圧亢進症状を呈することがある。
提言2:
●抗凝固薬・抗血小板薬内服中の患者では頭蓋内出血の可能性を認識する
●初回CTで頭蓋内出血が認められる場合は、予め時間を決めて再度、頭部CTを撮影することも考慮する
【ポイント】
凝固・線溶系の障害、血小板減少症の病態では、神経学的所見が出現してから頭部CT撮影を行った場合、手術などの治療が間に合わない可能性もある。
提言3:
●出血などの異常所見があれば、脳神経外科医師の管理下に手術ができる体制で診療を行う
●脳神経外科医師がいない場合は、手術が可能な病院へ転送できる体制を構築しておく
【ポイント】
転倒・転落による頭部外傷の事象発生に備え、転倒・転落後の診断と対応について検討しておくことが推奨される。
■頭部への衝撃を和らげるための方法
提言4:
●ベッド柵を乗り越える危険性がある患者では、ベッドからの転落による頭部外傷を予防するため、衝撃吸収マット、低床ベッドの活用を検討する
●転倒・転落リスクの高い患者に対しては、患者・家族同意のうえ、保護帽の使用を検討する
【ポイント】
ベッド柵を乗り越える能力のある患者へは、離床の誘因を取り除き、適切なタイミングで患者の行動をサポートする配慮も重要となる。
■転倒・転落リスク
提言5:
●転倒・転落歴は転倒・転落リスクの中でも重要なリスク要因と認識する
●認知機能低下・せん妄、向精神薬の内服、頻尿・夜間排泄行動も転倒・転落リスクとなる
●転倒・転落歴
転倒・転落につながるヒヤリ・ハットや同じ状況で転倒・転落を繰り返す可能性が高い。
●認知機能低下・せん妄など
ナースコールを押して介助の必要性を知らせることが難しく、一人で歩行してしまう。
●向精神薬
睡眠薬や抗精神病薬の副作用によりリスクが高くなる。
●頻尿・夜間排泄行動
加齢性変化による尿便意の切迫状態が気持ちの焦りとなり、健康時のボディイメージのまま行動する。
提言6:
●転倒・転落リスクの高い患者への、ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤をはじめとする向精神薬の使用は慎重に行う
【ポイント】
せん妄に対しては、薬物対応の前に、まず、原因の除去や早期離床、環境整備といった非薬物的対応に努めることが望まれる。
■情報共有
提言7:
●入院や転倒による環境の変化、治療による患者の状態変化時は、転倒・転落が発生する危険が高まることもあるため、患者の情報を共有する
【ポイント】
高齢者や認知機能低下の患者では、環境の変化などで混乱をきたす可能性があるため、転倒前の転倒・転落リスクに関する情報や入院前の患者情報が重要となる。
■転倒・転落予防に向けた多職種の取り組み
提言8:
●転倒・転落リスクが高い患者に対するアセスメントや予防対策は、多職種で連携して立案・実施できる体制を整備する
【ポイント】
個別の状況に合わせた転倒・転落予防対策の立案・実践・評価が重要である。
詳しくは、下記の日本医療安全調査機構Webサイト参照
https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=1
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