2019/9/18
多くの生活習慣病の危険因子として“肥満”が挙げられることはよく知られているが、最近になって、肥満が聴力にも影響を及ぼすという報告がされている。ただ、肥満と聴力低下との関連についての前向き研究は少なく、代謝異常を伴う不健康な肥満と、代謝異常を伴わない健康的な肥満とで聴力低下との関連が異なるかどうかも明らかではなかった。
そこで、国立国際医療研究センターでは、関東・東海地方に本社がある企業10数社の従業員約10万人を対象にした多施設共同コホート研究を行い、肥満が聴力低下のリスクを上昇させることを明らかにした。対象は2008年から2011年度の健康診断で聴力が正常であった20~64歳の約5万人で、最大8年間追跡した。そして、同センター疫学・予防研究部は、職域多施設研究のデータを用いて肥満と聴力低下との関連、代謝異常を伴う肥満と聴力低下への影響を検証した。
■調査方法
1.対象:スタディ参加施設の労働者のうち、2008~2011年度に職域定期健康診断を受診した20~64歳の聴力正常者48,549名
2.追跡期間:最大8年間
3.暴露:肥満(BMI 25kg/m2以上)と代謝異常(下記の2つ以上に該当)により4群に分類
(1) 収縮期血圧 ≥130 mmHg または拡張期血圧 ≥85 mmHg または高血圧治療中
(2) 空腹時血糖 ≥100 mg/dL または糖尿病治療中
(3) 中性脂肪 ≥150 mg/dL または脂質異常症治療中
(4) HDLコレステロール <40 mg/dL(男)、<50 mg/dL(女)
4.アウトカム:純音聴覚検査による聴力低下
低音域(会話域)1000 Hz >30 dB、高音域 4000 Hz >40 dB
5.調整要因:企業、性、年齢、喫煙、心血管疾患の既往、高血圧、糖尿病、脂質異常症
*感度分析にて、職場での騒音曝露、運動、飲酒を追加調整
その結果、肥満によって聴力低下のリスクは上昇し、リスク上昇は低音域聴力において顕著であった(図1)。また、聴力低下のリスクは代謝異常を伴う肥満者で最も高く、次いで代謝異常を伴わない肥満者、代謝異常を伴う非肥満者の順であった(図2)。
図1 肥満と聴力低下リスクの関連
図2 代謝異常を伴う肥満者と聴力低下リスクの関連
本研究により、肥満が聴力低下のリスク上昇と関連していること、また肥満に加えて血圧・血糖・中性脂肪の上昇、HDLコレステロールの低下といった代謝異常があることで聴力低下のリスクはさらに上昇することが明らかになった。
肥満が聴力低下を引き起こすメカニズムとしては、動脈硬化によって内耳動脈が狭窄・閉塞し、蝸牛(音の受容器官)の血流量が減少することや、肥満に伴って酸化ストレス・炎症・低酸素が引き起こされることで聴覚細胞が損傷すると想定されている。
同センターは、「聴力は加齢により低下しますが、肥満や代謝異常はそれを加速させる可能性があります。聴覚の健康にとっても肥満やメタボリックシンドロームにならない生活習慣が推奨されます」としている。
詳しくは、下記の国立国際医療研究センターWebサイト参照
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