2020/2/4
細菌が変化して抗菌薬・抗生物質が効かなくなる「薬剤耐性(AMR)」による死亡者数が増加しており、世界的な課題となっている。米国では年間3.5万人以上、欧州では年間3.3万人が死亡していると推定され、世界全体では2050年にはAMRに関連した死亡数が年間1,000万人に達する可能性があるとされている。
これまで薬剤耐性による日本での死亡者数は明らかになっていなかったが、国内初の調査結果を国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターが公表した。
同センターは、薬剤耐性菌のなかでも頻度が高いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)について、日本国内でのそれらの菌血症(*)による死亡数を検討した。これは、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)のデータから全国の菌血症症例数を算出し、過去の研究に基づいた死亡率と合わせて菌血症による死亡数を推定したものだ。
*菌血症:血液中に細菌が入り込んだ状態。さまざまな感染症が菌血症の原因となるが、菌血症をきたすとより重症となり死亡率が高くなる。
同調査では、MRSAとFQRECによる菌血症死亡者数の推計は2017年には年間約8,000人であった。MRSA菌血症による死亡数は、2017年には4,224名(95%信頼区間2,769-5,994)と推定された。2011年は5,924名(95%信頼区間3,837-8,513)であったため、次第に減少していることがわかる。これは、黄色ブドウ球菌菌血症全体の死亡数が横ばいであり、黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合が次第に低下しているためと考えられるとした。
一方、FQREC菌血症による年間死亡数は、2017年には3,915名(95%信頼区間3,629-4,189)と推定された。2011年は2,045名(95%信頼区間1,869-2,220)であり、次第に増加していることになる。これは、大腸菌菌血症全体の増加に加えて、大腸菌のフルオロキノロン耐性が増加しているためと考えられるとした。
■MRSAおよびFQRECによる菌血症死亡数(推定)の推移
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■黄色ブドウ球菌および大腸菌による菌血症死亡数(推定)
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今回の結果により、日本でも薬剤耐性(AMR)が大きな被害を及ぼしていることが明らかとなった。同センターは、AMR対策の重要性を改めて認識させる結果と言え、薬剤耐性菌の種類によって傾向が異なることから、その原因を検討するとともにそれぞれの特徴に合わせた対策を行う必要性が示唆されるとした。
臨床現場ではさまざまな薬剤耐性菌が問題となっているため、他の薬剤耐性菌についても死亡数の推定を行うとともに、社会への影響をより精緻に推定するための手法を検討していく予定とも述べている。
詳しくは、下記の国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターWebサイト参照
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