2020/7/22
検査や手術、入浴などの際の患者の移乗は、日々の看護業務のなかでもよく行うもののひとつである。高齢化に伴いADLの低下した患者の割合も増えてきており、歩行障害や意識障害などがある患者では全介助での移乗が必要になる場合も多い。看護師には、患者に負担をかけず、安全に移乗することが求められる。
移乗時に患者・介助者への負担を減らすためには、ベッドと身体との摩擦を減らすことができるスライダーなどの移乗補助器具の使用が便利である。しかし、このような器具は適切に使用しないと思わぬ事故につながる危険がある。
日本医療機能評価機構は、スライダーなどの移乗補助器具を使用した移乗の際、ベッドが動いて患者が転落した事例が9件報告されたとして、注意喚起を行った(集計期間:2016年1月1日~2020年3月31日)。この9件の事例の内訳は、以下のようになっている。
本報告では、特に下記2つの事例について紹介している。
【事例1】
入浴用ストレッチャーからベッドへの移乗の際、看護師と看護助手はそれぞれベッド側とストレッチャー側に立った。ベッドを固定していない状態で患者を載せたスライダー(移乗補助器具)を押したところ、ベッドが動いて患者が転落した。頭部CT検査を実施し、後頭部皮下出血と診断した。
【事例2】
看護師は処置まで時間がないと焦り、スライダー(移乗補助器具)を使用して1人で患者をベッドからストレッチャーに移そうとした。ストレッチャーの固定が不十分な状態でベッド側から患者の左肩と腰を支えてストレッチャー側へスライドするように押したところ、ストレッチャーが動いて患者が転落した。下肢のCT検査を実施し、右脛骨内果骨折と診断した。
事例が発生した医療機関の取り組みとして、下記が提示された。
●移乗前にベッド・ストレッチャーを固定し、確実に固定されていることを確認する。
●移乗時、介助者は適切な位置につく。
●スライダーなどの移乗補助器具の使用方法を周知する。
*上記は一例であり、自施設に合った取り組みを検討すること
ベッドの固定は移乗時の基本であるが、本報告のとおり、ベッドの固定がされていない、あるいは固定が不十分だったことによる転落はたびたび報告されている。さらに、ロックをしていてもベッドやストレッチャーが動いた事例があり、ベッドやストレッチャーは動く可能性があるという認識を持つこと、適切な介助者の人数・配置を行うことが重要であると述べられている。
詳しくは下記の日本医療機能評価機構Webサイト参照
「ベッドへの移乗時の転落」
http://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_162.pdf
第56回報告書「再発・類似事例の分析:ベッドからベッドへの患者移動に関連した事例」
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