2020/8/4
令和2年度診療報酬改定では、「排尿自立支援加算」「外来排尿自立指導料」が診療報酬上で評価されることとなった。これは、平成28年度診療報酬改定で設けられた「排尿自立指導料」が、外来でも適用できるようになったもので、同時に適用される入院料も、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟等に拡大された。このように排尿自立へのアプローチが評価されてきたのは、自らの力で排尿することが患者のQOLを大きく高め、尊厳の維持に寄与するからといえる。
急性期治療時には全身状態不良やADLの低下によって膀胱留置カテーテルの使用が必要になる患者も少なくない。急性期治療が終了した後、慢性期病院へ紹介入院されてくる患者の多くは重症度が高く、寝たきりが多いという理由で膀胱留置カテーテルを使用した状態で入院となる場合が多くみられる。一方で、「トイレの付き添い」や「オムツ交換」などの介助の手間がかかることを理由に、カテーテル留置が続けられる場合もあることもわかってきた。
日本慢性期医療協会では、この度、「急性期機能を有する病棟からの膀胱留置カテーテル持ち込み患者とその実態についての調査」結果を発表した。この調査は、わが国の寝たきり患者が諸外国と比較し圧倒的に多い原因が、急性期機能を有する病棟での不必要に行われる膀胱留置カテーテルであるとすれば、調査し、改革すべきである、という視点から行われたものである。
本調査は、2019年9月1日~10月31日までの2か月間に、慢性期病院(療養病床病棟入院基本料1、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、障害者施設等入院基本料、特殊疾患病棟入院料、介護療養型医療施設)に新規入院となった患者10,198人を対象としている。
調査によると、入院時の膀胱留置カテーテルの持ち込み数は、対象患者の10.6%にあたる1,079人であり、うち6割以上が、急性期機能を有する病棟からの入院であった。急性期機能を有する病棟で膀胱留置カテーテルが必要になった理由としては、表1に示すような理由が挙げられていた。
表1 持ち込みバルーン挿入患者の急性期機能を有する病棟での膀胱カテーテル留置の理由
(多いと思われる理由を多い順に回答、複数回答可)(N=153)
脳血管疾患等の神経因性の尿閉があるため | 20.7% |
全身状態不良(生命に関わる疾患の急性期など) | 18.3% |
尿路の閉塞があるため | 17.5% |
骨折等の整形外科術後 | 11.5% |
厳密な尿量測定のため | 10.1% |
安静臥床のため | 7.6% |
泌尿器・生殖器疾患の術後に治癒を促進するため | 7.0% |
高齢患者が病院内で転倒しないように予防策として | 2.8% |
看護職員が、頻回なオムツ交換を避けるため | 2.3% |
その他 | 2.3% |
膀胱留置カテーテルを使用して入院してきた患者のうち、296人(27.4%)はその後カテーテルの抜去が可能となった。抜去までにかかった日数は7~8割が20日までの間であり、抜去後はトイレにて排尿可能になった患者が3割程度、排泄訓練をしたもののオムツ排泄となった症例が2割程度あった。カテーテルを抜去した病棟においてはFIM(Functional Independence Measure:機能的自立度評価法)の点数が増加したのに対し、抜去できなかった病棟ではFIM点数の改善はみられなかった。
これらの結果から、入院時のカテーテルの一部は「不必要な膀胱留置カテーテル」と言え、これが患者自身のADLの妨げになっていたと考察されている。
膀胱留置カテーテル抜去に至らなかった理由としては、職員の意識・技術不足が多く挙げられており、排尿自立支援のための研修会等の充実が必要とされる。令和2年の調査によると、「排尿自立指導料」を取得している病院は全国で770にとどまっており、「不必要な膀胱留置カテーテル」抜去のためには、今後より積極的な取り組みが求められる。
詳しくは、日本慢性期医療協会Webサイト「急性期機能を有する病棟からの膀胱留置カテーテル持ち込み患者とその実態についての調査」参照
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