2020/9/3
去る2020年7月に九州地方をはじめ、東海地方、東北地方などを襲った豪雨は、記録的な雨量とともに甚大な被害をもたらした。同年8月24日現在、熊本県ではいまだ約1,000人の人々が避難所に身を寄せているという(※1)。また、被災した自宅や車中泊での避難生活を送るケースも少なくなかったようだ。
避難生活では、避難者の精神的なサポートや持病の悪化、新たな疾患の発症を防止することが重要となる。先の熊本地震においては、長期化する車中泊によって、エコノミークラス症候群が多く発症し、大きな社会問題となったことが記憶に新しい。震災そのものや長期化する避難生活の影響により、エコノミークラス症候群だけでなく、急性心筋梗塞や心不全といった循環器疾患の発症リスクの増加が知られている。
さらに、各避難所では、いまだ猛威をふるう新型コロナウイルスに対する感染症対策の徹底も求められている。
日本循環器学会では、こうした状況を鑑み、2014年に日本心臓病学会、日本高血圧学会と合同で発刊した「2014年版災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン」と、内閣府の防災情報ページの「避難所における新型コロナウイルス感染症対策関連情報」を参考に、「避難所における新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策」に関する声明を発表した。
声明では、以下の11項目について解説している。
1. 避難所の状況 2. 避難所での生活 3. 避難所で発熱・咳などの症状が出た場合 4. 睡眠の改善 5. 運動の維持 6. 血栓予防 |
7. 良質な食事 8. 体重の維持 9. 内服薬の継続 10. 血圧の管理 11. 禁煙の勧め |
「避難所での生活」では、まずは、頻繁な手洗いとマスクの着用、咳エチケットなどが新型コロナウイルス感染症予防において重要としている。あらかじめ、体温計やマスク、消毒薬、上履き(スリッパ・靴下など)、ゴミ袋を準備して避難所に持参することも望ましいという。避難所では、多くの人と、場所だけでなく、物品も共有することになる。こうした基本的な対策の徹底が、コロナウイルスだけでなく、他の感染症の予防にもつながる。
「運動の維持」では、身体活動として1日20分以上の歩行が推奨されている。車中泊を選択する場合には、できるだけ寝床が水平になるようにする。特に、下肢を下げたまま長時間動かない姿勢をとると、深部静脈血栓症から肺動脈塞栓症(エコノミークラス症候群)が発生する場合がある。特に、熊本地震では、エコノミークラス症候群を発症した人は、避難所の避難者よりも、避難所以外の避難者のほうが1.5倍多かったという報告もあり(※2)、注意が必要である。
「血栓予防」では、十分な量の水分摂取が勧められている。心臓や腎臓が悪くなければ、1日の水分摂取量は、1,000mL以上が目安である。
そのほか、体重や血圧の変化も体調管理の重要な指標となる。体重は、災害前の体重からの増減±2kg以内に保つこととし、血圧では収縮期(最高)血圧140mmHg以上なら医師の診察を受けることとしている。「災害高血圧」(※3)に対する早期コントロールが求められる。
避難者の健康管理に必須の事項が示された「避難所における新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策」の詳細は、日本循環器学会のWebサイトから閲覧できる。今後も災害や新型コロナウイルス感染症の状況により適宜見直される予定である。
詳しくは、下記の日本循環器学会Webサイト参照
「避難所における新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策」
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/避難所における新型コロナウイルス感染症に配慮した循環器疾患の予防と対策.pdf
(※1)内閣府防災情報のページ:令和2年7月豪雨による被害状況等について(2020. 8. 24)
http://www.bousai.go.jp/updates/r2_07ooame/pdf/r20703_ooame_35.pdf
(※2)内閣府防災情報のページ:平成 28 年度避難所における被災者支援に関する事例等報告書(2018. 4)
http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/houkokusyo.pdf
(※3)災害高血圧:災害による環境の変化、ストレス、睡眠障害により、交感神経が活性化され、末梢血管の収縮や心拍出量の増大を生じ、直接的に血圧の上昇に寄与する。
(日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同ガイドライン:2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン
https://www.jpnsh.jp/Disaster/guidelineall.pdf より引用)
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