2021/1/15
高齢化に伴い、耳が遠くなる、目が見えづらくなるといった感覚器の衰えが生じてくる。近年、海外の研究報告により、難聴があると認知症になりやすいということがわかってきた。国立長寿医療研究センター もの忘れセンターの研究グループでは、地域在住高齢者の住民健診データを統合し、聞こえについてのアンケート調査と認知機能との関連を解析した。その結果、地域在住高齢者では、難聴があると認知機能低下の合併が1.6倍多いことが明らかになり、難聴と認知機能には強い関連があることが示された。
本研究では、東京都板橋区および鹿児島県垂水市の2地区、計1,602人の住民健診データを収集し、統計解析を行っている。対象を補聴器の使用者と未使用者の2群に分けて比較を行ったところ、補聴器使用者は高齢で認知機能障害を伴う(時計の絵がうまく描けない、3つの単語の記憶・再生ができない)傾向がみられた。さらに、難聴(聞こえの程度)が重度になると、認知機能テストの正答率も低下することがわかった(下図参照)。
聞こえの状況と認知機能テスト正答率との関係
(国立長寿医療研究センター もの忘れセンター2020年12月1日〈ニュース&トピックス〉より引用)
今回の結果から得られた新知見として、難聴が認知機能障害と独立して関連する(年齢、性別、生活状況などの他の要因と関係なく関連する)、という点が挙げられる。これは、適切に補聴器を導入することによって、認知症の発症を軽減させうる可能性を示している。
なお、今回の研究からは、対象とした地域在住高齢者のなかで眼鏡を使用している高齢者は8割以上と多い一方、補聴器を使用している高齢者は1割未満と少ないこともわかった。また、海外(イギリス、フランス、ドイツ、デンマーク)と比較した際、難聴者の割合はいずれの国もおよそ10%程度とほぼ同一にもかかわらず、補聴器の使用率は海外諸国よりも日本では低い傾向にあるというデータも出ている。
補聴器を適切に使用することで、認知症の発症リスクを軽減できる可能性が示されたことから、今後、地域在住高齢者への健診等の際の聴力や認知機能のチェックはより一層必要になると考えられる。そして、必要に応じ適切に補聴器を取り入れていくことで、認知機能低下予防につながることが期待できる。
詳しくは、国立長寿医療研究センター もの忘れセンターWebサイト 「2020年12月1日〈ニュース&トピックス〉『もの忘れセンターの佐治直樹副センター長らが、難聴と認知機能低下との強い関連を見いだしました。』」参照。
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