2022/6/15
「特定行為に係る看護師の研修制度」が2015年に始まってから、約7年が経過した。国は2025年までに10万人の修了をめざすとしているが、2022年3月現在、特定行為研修を修了した看護師(以後、特定看護師)の数は4,832名(修了者延べ人数は27,377名)にとどまっている(*1)。
特定看護師の活躍の場として特に期待されているのが、地域の介護保険施設や在宅の現場だ。これらの現場は病院と異なり医師が常駐しておらず、急変や、急変までには及ばずとも“違和感”がみられた際などに、医師がすぐに駆けつけることは難しい。このような場において、専門的な技術と臨床判断・推論能力を兼ね備えた特定看護師が主体となり、タイムリーなケアや処置が可能となることが期待されている。
とはいえ、日本看護協会が公表している「特定行為研修修了者名簿(*2)」によると、特定看護師の大半の就業先は「病院」であり、より地域に近しい「訪問看護ステーション」や「介護保険施設」への就業者数はまだまだわずかなようだ。
令和3年度老人保健健康増進等事業の一環で、介護保険施設を対象に行われた調査(*3)によると、特定看護師が配置されていると回答した施設は、介護老人福祉施設で1.1%(3/264施設)、介護老人保健施設で2.8%(7/254施設)、介護医療院で3.0%(4/132施設)であった。うち11施設は特定看護師1名のみの配置となっており、施設数・配置数ともにまだまだ少ない状況であることがうかがわれた。
また、「特定看護師に係る制度」への認識も、十分とは言えないようだ。内容も含めてよく知っていると回答した施設管理者は全体の3割程度であり、名称を聞いたことはあるが内容は知らない、あるいは知らない、との回答が半数以上にのぼった。
今後の研修受講については、前向きに考えている施設もある一方で、その必要性を感じていない施設も一定数みられた。その理由としては、費用負担や、限られた職員数で人員調整が難しい、という回答もあったが、最も多く挙げられたのが、施設内に特定看護師が活躍できる場面が少ない、という点であった。このような声は、介護保険施設に限らずたびたび現場の特定看護師からも聞こえており、継続的な課題となっている。
では、実際介護保険施設で活躍している特定看護師は、どのような点に期待され、またどのような活動をしているのだろうか。同調査でのヒアリング結果を一部紹介する。
実際に現場で実施した経験が多い特定行為としては、以下が挙げられた。
施設・看護師によってばらつきはあるものの、各施設において特定行為の実施がなされていることがわかった。
特定行為研修で得られた知識等が活きた場面としては、ヒアリング対象となった特定看護師および施設長の全員が「臨床推論能力の向上」を挙げていた。より深いアセスメントが可能になることで、医師の受診が必要かどうかの判断につながったり、他の看護師の相談役となることで、施設全体の安心感や、コミュニケーションの円滑化にもつながっていることがうかがえた。
また、特定看護師に期待される「タイムリーな判断・介入」も実際に行われているようだ。早期の介入は、オンコールや外部への受診の減少にもつながり、施設・患者双方のメリットも大きい。医療ニーズが高い患者の受け入れ態勢を整えるうえでも、特定看護師への期待が高いことがうかがわれた。
少子高齢化が加速するなか、国は地域包括ケアシステムの構築を推し進めており、地域医療・在宅医療の担い手として、特定看護師にかかる期待は大きい。その一方で、特定行為の実施に医師や患者・家族の理解が得られない、介護分野には特定看護師の配置に対する金銭的なインセンティブがなく経営上のメリットが得られない、といった課題も浮き彫りになっている。
特定看護師が現場で十分に力を発揮するためにも、現場理解の推進と、制度上のサポートが急務である。
【出典】
*1 厚生労働省:看護師の特定行為研修を修了した看護師数(令和4年3月現在)
*2 日本看護協会:特定行為研修修了者名簿(2021年10月31日現在)
*3 みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社:令和3年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業「介護保険施設における医療専門職の関与のあり方の検討に関する調査研究事業」報告書(令和4年4月)
https://www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/r03mhlw_kaigo2021_04.pdf
×close
©DEARCARE Co., Ltd.