2022/6/21
順天堂大学は、同大学院医学研究科スポートロジーセンターの染谷由希氏(現スポーツ健康科学部助教)らの研究グループが、肥満かつ、握力の低下を併発した「サルコペニア肥満」の高齢者では、軽度認知機能障害および認知症のリスクが高いことを明らかにしたと発表した(2022年4月15日付)。
認知機能が低下するリスク因子として、加齢に伴う骨格筋量の減少を示すサルコペニアや肥満が知られている。欧州では、サルコペニアと肥満が合併したサルコペニア肥満は、サルコペニア単体よりも日常生活活動の低下を引き起こすことが報告されており、これは、体重の減少はないものの骨格筋量と筋力が低下している状態によって要介護リスクが高まっていると考えられるという。しかし、サルコペニア肥満と認知機能の低下との関連はこれまではよくわかっていなかった。
そこで同研究チームは、東京都文京区在住の高齢者を対象としたコホート研究(文京ヘルススタディー)において、サルコペニア肥満と認知機能の低下との関連について調査を行った。調査対象は、文京ヘルススタディーに参加した65~84歳の1,615名(男性684名、女性931名)で、身長・体重、握力を測定するともに、認知機能検査が実施された。
同研究におけるサルコペニア肥満の定義は、BMI25kg/m2以上かつ筋力の低下(男性:28kg、女性:18.5kg未満)である。研究チームによると、わが国における高齢の肥満者で、骨格筋量と筋力の両方が低下しているサルコペニアを合併する人はほとんどいないという。そのため、筋力のみが基準として用いられることとなった。
同研究では、BMIと握力の数値をもとに、正常:肥満もサルコペニアも該当しない、肥満:肥満のみ該当する、サルコペニア:サルコペニアのみ該当する、サルコペニア肥満:両方とも該当する、の4群に分類し、各認知機能検査(MoCA、MMSE)の点数や軽度認知機能障害(MoCA で22点以下)、認知症(MMSEで 23点以下)の有病率を比較した。
その結果、正常、肥満、サルコペニア、サルコペニア肥満の順で、各認知機能検査の点数が低下し、軽度認知機能障害、認知症ともに有病率が増加したとのこと。さらに、年齢や教育歴、基礎疾患(高血圧や糖尿病など)を調整した結果、サルコペニア肥満は、正常と比べて、軽度認知機能のリスク(オッズ比)が約2倍、認知症のリスクが約6倍になることが示されたという。また、認知症においては、サルコペニアだけでも正常の約3倍のリスクになることが明らかになったとのこと。
この結果をふまえ、同研究グループでは「軽度認知機能障害を有する人は、運動や食事などの生活習慣を改善することで、認知症の進行予防効果が期待される」と述べている。また、「握力やBMIといった簡便な方法によって、認知機能の低下の早期発見に役立つことが示唆された」としつつも、「サルコペニア肥満と認知機能低下が関連するメカニズムや認知機能低下の原因など不明な点が多くの残されるため、さらなる研究を進めていく」としている。
詳しくは、下記の順天堂大学Webサイト参照
「サルコペニアと肥満の併発で認知症のリスクが増大」
https://www.juntendo.ac.jp/news/20220415-01.html
MoCA:Montreal cognitive assessment,モントリオール認知評価検査
MMSE: Mini-mental state examination, ミニメンタルステート検査
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