2022/7/5
東京医科歯科大学の摂食嚥下リハビリテーション学分野の研究グループ(戸原玄教授、中川量晴准教授、石井美紀医員)は、65歳以上の要介護高齢者を対象に、離床時間と全身の筋肉量と摂食嚥下機能との関連を調査した。その結果、少なくとも4時間、可能であれば6時間以上離床すると、全身の筋肉量が保たれ摂食嚥下機能がよい傾向にあると報告した(2022年4月15日付)。
同研究グループは、昨年(2021年)11月に介護状態にかかわらず摂食嚥下リハビリテーションとして離床が有効であることを報告していた。さらに研究を重ね、離床時間別に全身の筋肉量と摂食嚥下機能の比較検討を行い、このたび食べる機能を保つための離床時間の目安を明らかにするに至った。
本研究の対象は、首都圏在住で同大学病院の摂食嚥下リハビリテーション科から訪問診療を行ったADLが自立していない要介護高齢者で、年齢、性別、BMI (Body Mass Index)、ADL、併存疾患、服薬種類数、離床時間が調査された。
ADLは、要介護認定の基準を参考に「Group1:介助がなければ歩行や立ち上がりができない人(要介護3相当)」、「Group2:介助があっても歩行や立ち上がりが困難な人(要介護4相当)」、「Group3:ほとんど寝たきりの人(要介護5相当)」に分類され、離床時間は先行研究を参考に「0-4時間」、「4-6時間」、「6時間以上」の3段階に分類された。
全身の筋肉量は生体インピーダンス法で四肢骨格筋指数と体幹筋指数を算出し、摂食嚥下機能はFOIS(Functional Oral Intake Scale、摂食嚥下障害の重症度をとらえる指標)を用いて評価された。
その結果、離床時間が「0-4時間」のグループに比べ、4時間以上のグループは四肢骨格筋量と摂食嚥下機能が保たれ、6時間以上のグループでは四肢骨格筋量に加えて体幹の筋肉量が多く、常食に近い食事を摂っていたとのことだ。要介護高齢者の全身筋肉量は離床により保たれ、摂食嚥下機能は離床時間と体幹の筋肉量と関連することが明らかにされた。
マウスによる先行研究では、筋肉を働かせて自分の体重を支えることで廃用による筋萎縮を防げることがわかっている。このことから、ヒトの場合も同様に、離床して車椅子等に座り、重力に抵抗する時間を設けたことで全身の筋肉量が維持された可能性があるとのことだ。
また、6時間以上のグループの食事形態が常食であったことについて、同研究グループでは常食に近づくにつれ咀嚼が必要であること、そして咀嚼するためには覚醒と体幹機能が重要とし、6時間以上の離床で体幹の筋肉が保たれていることから、離床時間によって嚥下機能に差が生じたものと考えている。
要介護高齢者の摂食嚥下リハビリテーションとして離床を勧める際に、これまでは科学的根拠をもって離床時間の目安を伝えることができなかったが、本研究の知見により、訓練指導の代わりに日常生活の中に離床を取り入れる指導において具体的な目標を設定することが可能になったと述べる。例として、離床時間が0-4時間の人は車椅子上で食事を摂ることを目標に、4-6時間の人では食事等の生活動作以外の余暇時間(テレビを見る等)も車椅子上で過ごすことを目標に環境を整えるとよいと提案している。
詳しくは、下記のWebサイトを参照
・東京医科歯科大学Webサイト
「要介護高齢者の離床時間、全身の筋肉量および摂食嚥下機能の関連」
https://www.tmd.ac.jp/press-release/20220415-2/
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有料サービス「ディアケア プレミアム」で毎月期間限定配信中のポケットセミナーでは、2022年7月から今回ご紹介した東京医科歯科大学の同研究グループの戸原玄教授と中川量晴准教授を講師にお招きし、「『本当に食べられない?』 ナースができる摂食嚥下障害の評価と対応」と題したセミナーを開催する。訪問診療の現場で、食べることを通して患者さんのQOL向上に尽力されている先生方から、本研究の詳しい内容はもちろん、摂食嚥下ケアに活かせる実践的な内容を全5回にわたってお話しいただきます。この機会にぜひご視聴ください。
7月からのポケットセミナーの詳細は以下を参照
・「ディアケア プレミアム」
「本当に食べられない?」 ナースができる摂食嚥下障害の評価と対応
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat04/theme003/index.html
1. 摂食嚥下ケアにおいて持つべき視点(2022年7月18日~24日配信)
2. 食べられる? 食べられない? 観察のポイント(2022年8月15日~21日配信)
3. 摂食嚥下障害への具体的な対応① 薬剤の見直し(2022年9月19日~25日配信)
4. 摂食嚥下障害への具体的な対応② ベーシックなリハビリテーション(2022年10月17日~23日配信)
5. 摂食嚥下障害への具体的な対応③ 日常生活の中でできるリハビリテーション(2022年11月21日~27日配信)
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