2022/9/5
日本感染症学会は、2021 年後半から 2022年前半にかけて、北半球の多くの国でインフルエンザの小ないし中規模の流行が見られたことを受けて、2022年7月26日、2022-2023年シーズンのインフルエンザ対策に関する提言を医療機関に向けて公表した。提言では、A(H3N2)香港型に注意すること、インフルエンザワクチン接種の推奨、発熱患者においては新型コロナウイルス感染症(COVID-19) とインフルエンザの鑑別が重要になるとの見解が示された。
特に小児を中心に大きな流行となるおそれ
わが国では、COVID-19が流行した2020年2月以降、インフルエンザの患者報告数は急速に減少し、過去2年間、国内でのインフルエンザウイルス検出の報告はほとんどなかった。そのため、社会全体のインフルエンザに対する集団免疫が低下していると考えられるという。国立感染症研究所が行ったインフルエンザ抗体保有率の調査(*1)では、年齢群によっては保有率が低く、以前に比して低下している傾向が見られたとのこと。いったん感染が起こると、特に小児を中心に大きな流行が起こる可能性があると示唆する。
A(H3N2)香港型に注意
提言では、2021-2022年、欧米では、主としてA(H3N2)香港型による流行がみられ、中国においても今年に入ってからA(H3N2)香港型が増加しているという。さらに、オーストラリアでも本年度に検出されたインフルエンザウイルスのうち、サブタイプが判明したものでは約80%がA(H3N2)香港型であった。こうした状況から、わが国でも同型の流行が主体となる可能性があると述べる。
なお、A(H3N2)ウイルスは、ワクチンの製造過程においてHA(ヘマグルチニン)抗原に変異が起こるため、ワクチン効果(ワクチン未接種者における発症に比して、ワクチン接種者での発症が減少する割合)が低下し、特に免疫能が低下している高齢者では、その影響が顕著であるという。
今季もインフルエンザワクチン接種を推奨
このようにA(H3N2)香港型に対するワクチンの発病防止効果は未知ではあるが、65歳以上の高齢者ではA(H3N2)感染による入院防止率は37%であったとする研究結果(*2)に触れ、発症してもワクチンによる一定の重症化防止効果は期待できるとしている。
提言では、ワクチンで予防できる疾患については可及的に接種を行い、医療機関への受診を抑制して医療現場の負担を軽減することも重要とし、今季も例年通りに、小児、妊婦も含め、接種できない特別な理由のある方を除きできるだけ多くの方にインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨するとしている。
例年通りのインフルエンザ診療が必要
発熱患者への外来診療では、ワクチン接種歴にかかわらずCOVID-19 とインフルエンザの鑑別が重要であり、両方を念頭に置いて、PCR検査、抗原検査、迅速診断等による確定診断が必要とのこと。
また、インフルエンザと診断されたら、インフルエンザの重症化、死亡率を抑制する抗ウイルス薬による治療を検討するとし、重症化のリスクを持たない人でも重症化することがあり、その予測は困難であるとの見解を示した。
提言の詳細は日本感染症学会のホームページより確認ができる。なお、2022年8月9日には一般の人を対象にした同内容の提言が発表された。
詳しくは、下記の日本感染症学会Webサイト参照
https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=47
*1:国立感染症研究所. インフルエンザ抗体保有状況 2021 年度速報第 2 報.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/je-m/2075-idsc/yosoku/sokuhou/10864-flu-yosokurapid2021-2.html
*2:Rondy M, Launay O, Castilla J, Costanzo S, Puig-Barberà J, Gefenaite G, et al. Repeated
seasonal influenza vaccination among elderly in Europe: Effects on laboratory confirmed
hospitalised influenza. Vaccine 2017; 35: 4298-306.
×close
©DEARCARE Co., Ltd.