2022/10/12
国立循環器病研究センターは2022年8月17日、都市部地域住民を対象とした吹田研究(1989年より同研究センターが実施しているコホート研究)を用い、肝臓酵素およびアルコール摂取量と糖尿病発症リスクとの関連を調査した結果を発表した。
この研究は、同センターの健診部・小久保喜弘特任部長らの研究グループによるものだ。肝臓酵素と糖尿病罹患リスクとの関連はすでに多く報告されており、その関連は飲酒量により違う可能性が「The Kansai Healthcare Study」に報告されている(※1)。しかし、同Studyの追跡時間は4年で、研究対象者は男性のみであり、その研究結果の妥当性を検証する必要があった。今回の研究によって、飲酒習慣と肝臓酵素と糖尿病の新規罹患を13年間追跡して、それらの関連を都市部の一般住民において明らかにしたことになる。
近年、わが国の糖尿病患者数は増加しており、その大部分は2型糖尿病である。放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こすだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患や認知症、一部のがんの発症リスクを高めることも知られている。そのため、特定健診・特定保健指導における糖尿病罹患を予防するための取り組みが重要とされている。
こうした背景から、同研究グループでは、吹田研究に参加する30~79歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に循環器疾患と糖尿病の既往者を除外した5,972人(男性2,735人、女性3,237人)を対象に、糖尿病の新規発症を13年間追跡した。その結果、597人の糖尿病発症を認めた。
調査結果は次のとおり。
■糖尿病への罹りやすさはγ-GTP、ALT、ASTの高値群でより高く
肝臓酵素のγ-GTP(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)、AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)の低値群と比べて、高値群の糖尿病罹患の調整ハザード比(95%信頼区間)は、それぞれ、1.98 (1.44–2.72)、2.02 (1.48–2.74)、1.47 (1.12–1.95)であった。
■適正飲酒者は糖尿病罹患リスクがより低く
非飲酒者・過去飲酒者と比べて、現在飲酒者の糖尿病罹患の相対危険度も解析された。その結果、適正飲酒者 (アルコール摂取量1日あたり男性23.0グラム以下、女性11.5グラム以下)、中度飲酒者 (男性23.0–45.9グラム、女性11.5–22.9 グラム)、過剰飲酒者 (男性46.0グラム以上、女性23.0グラム以上)における糖尿病罹患の調整ハザード比(95%信頼区間)は、それぞれ、0.61 (0.43-0.86)、0.80 (0.63-1.03)、0.97 (0.68-1.39)であった。
■適正飲酒者は肝臓酵素が高値でも罹患リスクの上昇を認めない
「非飲酒者と過去飲酒者の肝臓酵素の低値群」と比べて、「非飲酒者と過去飲酒者の肝臓酵素の高値群」、「中度飲酒者の肝臓酵素の高値群」、「過剰飲酒者の肝臓酵素の高値群」の糖尿病罹患リスクは高く見られたが、「適正飲酒者の肝臓酵素の高値群」は有意な上昇を認めなかったとのこと。
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同研究グループは「肝臓酵素のγ-GTP、ALT、ASTの測定が糖尿病予防に意義があることを示した。さらに、適量のアルコール摂取者では糖尿病罹患リスクが低いことから、過剰飲酒の方に適量のアルコール摂取を指導するためのエビデンスを示すことが可能になる」と述べ、「これらから、特定健診・特定保健指導の現場で、肝臓酵素の測定値から保健指導する時には、アルコール摂取量も参考にする必要性が示唆される」としている。
詳しくは、国立循環器病研究センターWebサイト(2022年8月17日<プレスリリース>「都市部地域住民における肝臓酵素およびアルコール摂取量と糖尿病発症リスクとの関連」)参照。
※1 Sato KK , et al. Liver enzymes compared with alcohol consumption in predicting the risk of type 2 diabetes: the Kansai Healthcare Study. Diabetes Care. 2008 ;31:1230–1236.
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