2022/11/8
熊本大学は、2022年9月27日、高齢者において認知症に誤診され得る発達障害が存在することを世界に先駆けて報告した。
熊本大学病院神経精神科の佐々木博之特任助教、同大学大学院生命科学研究部神経精神医学講座の竹林実教授らの研究グループによる調査研究で、熊本大学病院の認知症専門外来に紹介された患者446名のうち7名(1.6%)が認知症ではなく、発達障害の1つである「注意欠陥多動性障害(ADHD)」であることがわかった。
同研究グループでは、2020年に、高齢者において認知症のように誤診され得る発達障害患者の症例を報告している(*)。その症例とは、これまで日常生活にそれほど大きな支障がなかった60歳前後の会社員が、もの忘れや不注意が目立ってきたことを理由に認知症を疑われて認知症専門外来を受診したが、詳細な検査や検証の結果、認知症ではなく、加齢により顕在化したADHDであったことが判明したというもの。さらに、ADHDの薬物療法後は物忘れや不注意の症状が改善し、復職することができたという。発達障害と認知症では、治療薬や予後が大きく異なるため、その鑑別をすることの意義は大きいとされた。
今回、こうした知見を踏まえて、高齢者において認知症のように誤診され得る発達障害患者がどの程度存在するかを明らかにする目的で、調査研究が行われた。具体的には、まず認知症専門医が患者を診察して認知症の有無を見きわめ、認知症が否定された患者を発達障害の専門医が評価する方法がとられた。
先に述べたように、その結果、7名(1.6%)が後天的に顕在化したADHDであったことが明らかになり、そのうち約半数にADHDの治療薬の効果があったという。以上から、認知症と誤診されうるADHDの患者は決してまれではないこと、さらに適切な治療を行えば高い確率で回復が可能であることが示唆された。
同研究グループは、今後の展望として「さらに大規模な調査を行い有病率を明らかにし、認知症に誤診されうる発達障害患者の存在を社会へ啓蒙することが必要」と述べる。加えて、「高齢者の発達障害を適切にかつ簡便に鑑別するツールの開発が急務」としている。
詳しくは、下記の熊本大学Webサイト参照
「高齢者において、認知症に誤診されうる発達障害が存在することを世界に先駆けて報告」
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20220927
* Sasaki H, Jono T, Fukuhara R, et al: Late-manifestation of attention-deficit/hyperactivity disorder in older adults: an observational study. BMC Psychiatry 2022; 22(1):354.
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