2023/1/24
社会的認知機能とは、他人の意図や性質、行動への感じ方、それに対する反応など、社会的なかかわりの基盤となる認知機能を指す。運動や食事を意識した健康的な生活スタイルは、いまや疾病予防だけでなく、社会性の維持・増進にも効果があると考えられている。
神戸大学大学院人間発達環境学研究科の石原暢助教と玉川大学脳科学研究所の松田哲也教授らの研究グループは、機能的磁気共鳴画像法(*1)を用いて、心筋梗塞などの心血管疾患の要因となる心血管リスク因子(肥満、高血圧)と低体力が社会脳ネットワーク(*2)に関係する脳の活動を低下させ、その結果、社会的認知機能を低下させることを明らかにした。
本研究は、心血管リスク因子をもつ人や体力の低い人が増加している背景から、社会的認知機能の低下のリスクとの関連を明らかにすることを目的に行われたものである。
米国のHuman Connectome Project(*3)のデータベースに登録されている1,027人のデータについて、脳の活動レベルを推定できる機能的磁気共鳴画像法とよばれる技術を用い、社会的認知中(アニマシー知覚(*4)中)の脳の活動を測定、分析した。評価指標はそれぞれ、心血管リスク因子はBMIおよび収縮期と拡張期の血圧データ、体力は持久力、歩行速度、手指巧緻性(手指の器用さ)、筋力のデータ、社会的認知機能はアニマシー知覚の正確性と表情認知課題(*5)の反応時間と正答率とした。
分析の結果、BMIと血圧が高く、体力が低いほど、社会脳ネットワークにかかわる脳の領域(側頭頭頂接合部、側頭葉、下前頭回、後帯状皮質)の活動が低下することがわかり、特にBMI、持久力、手指の器用さにおいて、強いかかわりが示されたという。さらに、心血管リスク因子と体力は社会的認知中の脳の活動を介して、アニマシー知覚の正確性と表情認知課題の成績とかかわっていた。このことは、BMIと血圧が高く、体力が低いことは、社会脳ネットワークに関係する脳の活動を低下させ、社会的認知機能を低くすることを示している。
同研究グループによれば、「今回の研究では、心血管リスク因子と低体力が社会的認知機能を低下させるのか、社会的認知機能が低いことが心血管リスク因子や低体力の原因であるのか、因果の究明には至らなかったが、運動や食事などの生活スタイルの見直しや、体重の減少と持久力および手指の器用さの向上に着目した介入をすれば、社会的認知機能を向上させる効果が期待できる可能性があり、さらに研究を重ねていく必要がある」としている。
詳しくは、下記の神戸大学Webサイト参照
「心血管リスク因子と低体力は社会的認知機能の低下と関わる」
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2022_06_09_01.html
*1 機能的磁気共鳴画像法
酸化型・還元型ヘモグロビンの磁化率の差異を利用することで、脳血流量の変化を推定・画像化する技術。得られた画像を解析することで、各脳部位の活動レベルを推定することができる。
*2 社会脳ネットワーク
社会的認知中に活動する脳領域から成るネットワーク。内側前頭葉、側頭頭頂接合部、側頭葉、後帯状皮質、下前頭回などが含まれる
*3 米国Human Connectome Project
ヒトコネクトームの解明に向け、北米で2012年に開始された大規模研究プロジェクト。およそ1,200名の被験者から収集された脳画像データが公開され、広くデータの共有がなされている
*4 アニマシー知覚
対象物に意図や生物性を感じること。本研究では、丸や三角などの幾何学図形の動きから意図や生物性の有無を判断する課題が用いられた。
*5 表情認知課題
顔写真からその人の感情を読み取る社会的認知機能を評価する課題。
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