2023/4/18
一般社団法人日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)には、2015年10月から始まった医療事故調査制度に基づいて、さまざまな医療機関から医療事故の調査報告書が寄せられている。類似の報告が相次いだ事例に関しては、その共通点・類似点を調査・分析し、“死亡に至ることを回避する”という視点から、「再発防止に向けた提言書」をまとめている。
2017年3月に初めて出された提言書では、「中心静脈穿刺合併症に係る死亡」が取り上げられていた。
中心静脈カテーテルの挿入は、全身管理を目的に日常的に行われている医療行為であるが、穿刺時や、カテーテルを目的部位まで進める際・抜去の際などに、近傍に存在する動脈・肺・心臓などへの誤穿刺、静脈壁の損傷や目的部位とは異なる静脈枝への迷入などのリスクを伴う手技でもある。第1段の提言書では、適応への慎重な検討の必要性や、患者管理の際の観察点、穿刺手技のポイントなどがまとめられていた。
公表後5年が経過し、依然として関連した死亡事例の報告が減少しておらず、提言内容が実践に至っていない現状が確認されたことから、提言書の再評価を行い、より具体性をもった改訂版「中心静脈カテーテル挿入・抜去に係る死亡事例の分析」を公表する運びとなった。
本提言書では、カテーテルの挿入前から挿入後までと、抜去時、および恒常的な管理体制の整備について、合わせて11の提言がまとめられている。さらに、血液浄化用カテーテルの留置についても、新たに1つ提言が加えられた。具体的な項目は以下のとおり。
提言1 リスク評価の標準化と適応決定
提言2 説明とリスクの共有
提言3 穿刺手技:タイムアウトの実施
提言4 穿刺手技:穿刺針の選定
提言5 穿刺手技:ガイドワイヤー挿入手技
提言6 穿刺手技:ダイレーター挿入手技
提言7 カテーテルの位置確認
提言8 動脈内誤留置や血管外留置への対応
提言9 患者観察
提言10 空気塞栓症
提言11 恒常的な組織管理体制の整備
提言12 血液浄化用カテーテル
このうち特に看護師のかかわりが大きいのは、提言9の「患者観察」だろう。本提言書では、具体的に以下のような記載がある。
【患者観察】
提言9 カテーテル挿入後の管理を行う医師・看護師は、カテーテル挿入時の情報を把握し、患者を観察する。カテーテルの使用直後から数日以内に①息苦しさ・SpO2低下・頻呼吸、②頻脈・血圧低下、③不穏症状を認めた場合は、カテーテルの血管外留置を疑い、まず輸液を中止し、精査する。カテーテルが挿入できなかった場合も、穿刺時に血管損傷している可能性を踏まえて観察する。
まずは、中心静脈カテーテル挿入は、致死的合併症が生じ得るリスクの高い医療行為であることを認識することが、観察の第一歩となる。
そのうえで、挿入後の患者と接する際は、挿入時の状況を担当医と共有しておくことが大切だ。挿入時に抵抗が認められた、逆血が確認できない、穿刺が数回に及んだなどの状況がみられた場合は、カテーテルが標的静脈内に留置されていなかったり、血管損傷が生じている可能性が考えられる。
施術直後だけではなく、数日間は合併症の出現に注意し、提言9内にあるような症状を認めた際はただちに適切な対応につなげられるよう意識しよう。
なお、本提言書では、各提言の関連資料として、挿入前の確認事項をまとめたチェックリストや、患者・家族への説明・同意書、挿入後の患者観察に活用できる記録用紙などの例が紹介されており、すぐに実践に活用できる内容となっている。提言内容と合わせ、ぜひご活用されたい。
詳しくは、下記の一般社団法人日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)Webサイト参照
「中心静脈カテーテル挿入・抜去に係る死亡事例の分析-第2報(改訂版)-」
https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/teigen17comp.pdf
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