2025/7/22
東京慈恵会医科大学の研究グループは、在宅療養の高齢患者に提供される「多職種によるケア(医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー など)」の“質”が、家族介護者の介護への向き合い方に影響を及ぼすことを明らかにしたと発表した。
わが国では急速な高齢化に伴い、慢性疾患を有しながら在宅療養を継続する高齢者が増加しており、その生活を支える家族介護者の役割が一層重要となっている。家族介護者が担うケアは、制度的・財政的側面からも不可欠なケア提供形態であるものの、介護者の心身に与える影響が社会的課題として認識されてきた。従来の研究は介護負担感を中心に介護の否定的側面に焦点が当てられてきたが、近年では介護によって得られる満足感や成長といった肯定的側面にも注目が集まっている。
介護経験の肯定的・否定的評価は、介護者の主観的健康感やQOLと関連する重要な指標であり、両側面を包括的に評価する必要がある。
専門職の 多職種連携によるケアは、被介護者本人だけではなく家族介護者に対しても支援となる。本研究では、地域医療機関において家族介護者の視点から評価された多職種によるフォーマルケアの“質”と、介護に対する認識との関連性を量的に検討した。
日本の関東地域に位置する6つの無床診療所を対象に、2022年11月から2023年3月の期間に、 質問票 を用いた横断的観察研究を行った。質問票の配付対象は、対象期間中に当該診療所で訪問診療または外来診療を受けていた65歳以上の要介護高齢者と、その主要な介護を担う20歳以上の家族介護者とした。300名へ質問票を配付し、うち251名から有効な回答が得られた(回収率84%)。
評価指標としては、以下のツールを用いている。
・J-IEXPAC CAREGIVERS:多職種によるケアにおける家族介護者の経験を評価する日本語版尺度。12項目について5段階評価を行う
・PAC:介護から得られる喜びや満足の認識など介護経験の肯定的側面を評価する尺度
・NAC:介護に伴う辛さや難しさの認識など介護経験の否定的側面を評価する尺度
介護者の平均年齢は66.6歳で、女性が77%を占めた。介護対象者の平均年齢は86.7歳であった。週あたりの介護時間は0~40時間が最多であるものの、1日17時間以上介護に従事する介護者も存在し、介護負担の多様性が示唆された。
解析の結果、それぞれの評価指標の関連として、J-IEXPAC CAREGIVERSスコアの上昇 に伴い、PACスコアも有意に増加する傾向が認められ、量反応関係が確認された。また、J-IEXPAC CAREGIVERSスコアが最も高い群においてのみ、NACスコアと、統計学的に有意な 負の関連が観察された。
以上の結果は、多職種による質の高いケアが、家族介護者の介護経験における肯定的評価の形成と、否定的評価の減弱に資する可能性を示した。これは、家族介護者のレジリエンスや精神的ウェルビーイングを支える 基盤として、多職種によるケアの「質」への注目が必要であることを示唆している。
同研究グループは、今後の期待される展開として、多職種によるケアの質的評価指標としてのJ-IEXPAC CAREGIVERSの普及および他地域・他疾患群への応用や縦断研究による因果関係の解明や、多職種によるケアの質のみならず、量的側面との相互作用にも着目し、介護者の多様なニーズに対応する地域包括ケアモデルの構築が求められる、と結んでいる。
詳しくは、下記学校法人慈恵大学のWebサイトを参照
「多職種によるケアの質が家族介護者の介護への向き合い方に影響 —質の高いケアを受けているほど、介護に対する肯定的な認識が高まる—」
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