2025/9/9
千葉大学予防医学センターの王鶴群特任研究員らのグループは、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の入居者と、地域で暮らす高齢者(以下、地域在住高齢者)との間で、健康感や幸福感にどのような違いがあるかを調査し、その結果を公表。調査の結果、サ高住に入居している高齢者のほうが、幸福感や生活満足度、身体的な健康状態がいずれも高い傾向にあることがわかった。
本研究は、千葉大学予防医学センターと積水ハウス不動産シャーメゾンPM東京株式会社との共同研究の一環として行われ、2025年6月23日に国際雑誌「Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology」の特集号に掲載された。
サ高住とは、バリアフリーな設計に加え、ケアの専門家による安否確認や生活相談などのサービスが提供される高齢者向け住宅である。2011 年の制度創設以降、年々増加傾向にある1。
調査では、サ高住入居者と、年齢、IADL(手段的日常生活動作)、就労状況、要介護度など12項目の背景要因が類似する地域在住高齢者を傾向スコアマッチングという統計的手法を用いて抽出。最終的に、サ高住入居者1,080人(平均年齢83.9歳)と、地域在住高齢者7,560人(平均年齢84.1歳)を対象にアンケート調査を実施し、「健康感・幸福感」および「社会的行動・社会的要因」の比較を行った。
その結果、「健康感・幸福感」に関する比較では、サ高住入居者は幸福感、生活満足度、身体的健康状態が、地域在住高齢者よりも良好であることが確認された。一方、精神的健康状態、人生の価値や目的、社会関係などに関しては、両群間に明確な差は認められなかった。
また、「社会的行動・社会的要因」に関する比較では、サ高住入居者のほうが外出や介護予防活動への参加、友人との交流、他者との食事の機会が多く、よく笑い、心の支えとなる情緒的なサポートを感じている割合が高いことが明らかになった。
同研究グループは、本研究で得られた知見が、高齢者の健康感と幸福感の維持・向上をめざす住宅モデルの開発や政策立案に貢献する可能性があると期待を寄せる。一方で、本研究は一時点のデータに基づいており、サ高住への入居が健康感や幸福感の向上に直接的な影響を与えているかどうかについては、因果関係の解明には至っていないとし、今後も継続的な追跡調査を行う予定であると述べている。
超高齢社会を迎える日本において、高齢者が「どこで、どのように暮らすか」は、生活の質(QOL)や健康に大きく影響する要素である。本研究の知見は、「高齢者のWell-beingを支える住環境や支援体制とは何か」を考えるうえで、有益な示唆を与える。看護や介護の現場においても、利用者の趣味や外出、会話の機会を増やすといった、「人とのつながり」や「地域活動への参加」を促す支援の重要性が、あらためて示されたといえるだろう。
詳しくは、下記の千葉大学Webサイト参照
「サービス付き高齢者向け住宅への入居は高齢者の身体的健康状態や幸福感の向上につながる可能性~傾向スコアマッチング手法による地域在住高齢者との比較研究」
https://www.chiba-u.ac.jp/news/research-collab/post_567.html
引用文献
1.一般社団法人高齢者住宅協会:サービス付き高齢者向け住宅の最新動向(2025年6月).
https://www.satsuki-jutaku.mlit.go.jp/journal/article/p=2814
(2025/8/06閲覧)
×close
©DEARCARE Co., Ltd.