2015/06/30創傷ケア
去る3月、日本老年医学会、国立長寿医療研究センターなどが中心となってまとめた「在宅医療に関するエビデンス:系統的レビュー」が発表された(www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20150513_01_01.pdf)。この報告は、在宅医療の推進を阻害する要因の一つとして、在宅においては病院や介護施設での医療に比べてエビデンスが乏しくガイドラインも確立されていない現状を踏まえて、在宅医療に関する国内外の文献を系統的レビューの手法を用いて精査したものだ。
具体的には以下の12項目の疾患・病態を対象として、介入方法とアウトカムについて疾患・病態に共通のキーワードを設定して検索式を行った。
[疾患・病態] ①認知症、②うつ病、③脳血管障害、④神経疾患(認知症を除く)、⑤運動器疾患(骨粗鬆症、変形性関節症など)、⑥臓器不全(心不全、呼吸不全、腎不全、肝硬変)、⑦悪性腫瘍、⑧褥瘡、⑨フレイル・低栄養、⑩嚥下障害、⑪排尿障害・排便障害、⑫急性疾患(肺炎、尿路感染症、脱水、外傷、発熱、熱中症)である。
使用した文献データベースは、Medline、Cochraneライブラリ、医中誌Webの3つで、2000~2013年の論文を対象とした。タイトルなどから検索論文の一次選択を行い、一次選択論文の抄録から採択論文を決定した。続いて、採択論文を精読して構造化抄録を作成し、それに基づいてCQ と回答からなる箇条書きのサマリーおよびその解説文を執筆したもの。エビデンスレベルはMinds2007 に従った。
このうち、「褥瘡」と「排尿障害・排便障害」のサマリーを紹介しよう。
褥瘡
CQ1:病院と在宅では褥瘡有病率に差はあるか?
在宅での褥瘡有病率は、病院に比べて高い(レベルⅣb)。
CQ2:在宅においても褥瘡の予防・治療にガイドラインは有効か?
在宅において褥瘡予防ガイドラインの遵守率は低いため、褥瘡予防・治療にガイドラインの普及が望ましい(レベルⅣa)。
CQ3:褥瘡発症予防にリスクアセスメント・スケールは有効か?
褥瘡発症予防にリスクアセスメント・スケール(ブレーデンスケール等)が有用であるが、在宅においては、発症要因が多岐にわたるため臨床判断と比較してリスクアセスメント・スケールの有用性は確立されていない(レベルⅡ)。
CQ4:在宅において褥瘡発症予防に栄養サポートは有効か?
経腸栄養剤を用いた栄養サポートは褥瘡発症予防に有用である(レベルⅠ)。
CQ5:在宅における褥瘡治療にいわゆる「ラップ療法」は使用してもよいか?
いわゆる「ラップ療法」は、医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な環境において使用しても良いが、極力避けることが望ましい(レベルⅤ)。
排尿障害・排便障害
CQ1:尿失禁、便失禁は、在宅療養患者にどのような影響があるか?
在宅医療を要する高齢者において、尿失禁、便失禁は高頻度にみられ、介護負担を増やす(レベルⅣb)。
CQ2:在宅高齢者の排尿障害と関連する因子は何か?
尿失禁は、認知機能低下、身体機能低下、尿路感染症、肥満、便失禁、薬剤(長時間作用型ベンゾジアゼピン)と関連する(レベルⅣb)。
一部の降圧薬(カルシウム拮抗薬、利尿薬)は、下部尿路症状を悪化させる(レベルⅣb)。
CQ3:在宅高齢者の便失禁に関連する因子は何か?
便失禁は、認知機能低下、身体機能低下、下痢、尿失禁、褥瘡と関連する(レベルⅣb)。
CQ4:排泄介助は、在宅高齢者の尿失禁を改善させるか?
時間排尿、排尿誘導は尿失禁(腹圧性,切迫性)を改善させる(レベルⅡ)。
CQ5:日常生活動作のリハビリテーションにより在宅高齢者の尿失禁は改善するか?
排尿に必要な日常生活動作の訓練によって、尿失禁を改善させる可能性がある(レベルⅡ)。
CQ6:在宅高齢者の尿道留置カテーテル使用に伴う問題は?
尿道留置カテーテルの長期使用で尿路感染症、閉塞、漏れなどの問題が高率に起こり得る(レベルⅣ)。
CQ7:間欠的自己導尿によって在宅高齢者の尿失禁は改善するか?
間欠的自己導尿は残尿の増加、または尿閉がみられる排尿障害において、尿失禁を改善させる(レベルⅤ)。
CQ8:環境調整によって在宅高齢者の尿失禁は改善するか?
補助具の選択を含めた環境調整によって、尿失禁を改善させる可能性がある(レベルⅥ)。
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