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2022年1月公開
「装具代」の“負担感”は、必ずしも“負担額”と相関していない
『エキスパートナース』編集部
社会生活上の困り事では、やはり経済的な負担が一番多いようです。2011年調査では「装具代が負担になっている」が最も多い38.6%、2017年調査でも「補助金を超えた装具代を支払っている」(42.6%)、「装具代金が負担になっている」(26.3%)となっています(図1)。
図1 社会生活で困った経験
ストーマ装具・ケア用品の1か月当たりの自己負担額はどのくらいでしょうか。表1に示したように、1円~5,000円未満が40.4%、5,000円~10,000円未満が22.0%、10,000円~15,000円未満が14.6%でした。これをストーマ種類別にみたものが図2、ストーマ保有年数別にみたのが図3です。ストーマ種類別では、大腸ストーマと尿路ストーマは1円~5,000円未満が最も多く、尿路ストーマでは10,000円以上が4割います。
表1 ストーマ装具・ケア用品の自己負担額(n=1,010)
実数 | % | |
---|---|---|
0円 | 106 | 10.5 |
1~5,000円未満 | 408 | 40.4 |
5,000~10,000円未満 | 222 | 22.0 |
10,000~15,000円未満 | 147 | 14.6 |
15,000~20,000円未満 | 74 | 7.3 |
20,000~50,000円未満 | 45 | 4.5 |
50,000円以上 | 8 | 0.8 |
計 | 1,010 | 100.0 |
文献1.より引用
図2 ストーマ種類別・自己負担額(n=860)
図3 ストーマ保有年数別自己負担額(n=1,035)
ストーマ保有者は、身体障害者手帳の交付を受けると日常生活用具であるストーマ装具の給付を申請できます。給付金の基準額は自治体によって違いますが、1か月に消化管ストーマ8,858円~12,600円、尿路ストーマ11,639円~15,750円と幅があります。基準額を超える場合は、自己負担分が生じます。また、生活保護受給者には治療材料費としての給付もあります。ただし、これらは永久ストーマが対象で、一時的ストーマは一部を除いて給付の対象外になっています。そのため、一時的ストーマでは、経済的な負担が増えることになります。
酒井: ただ、“負担額”が多いからといって必ずしも“負担感”が大きいわけではありません。SIUPでは、この調査をもとにストーマ装具の負担感と負担額に関する分析を行い、「ストーマ保有者のストーマ用品費用の自己負担額と負担感に関する要因の分析」という論文をまとめ日本創傷・オストミー・失禁管理学会の学会誌に投稿しました1。
ストーマ用品費用の自己“負担額”と“負担感”の関連をみてみましょう(表2)。負担感あり群では、5,000円~10,000円未満が81人(28.7%)と最も多く、1円~5,000円未満が63人(22.3%)、10,000円~15,000円未満が59人(20.9%)でした。つまり、負担額が少なくても(1円~5,000円未満)負担感をもっている人がけっこういます。負担感なし群では1円~5,000円未満が47.4%と最も多いのは当然のことだと思われますが、5,000円~10,000円未満でも19.4%は負担感なしと言っています。
表2 ストーマ装具の自己負担額と負担感
負担感あり(%) (n=282) |
負担感なし(%) (n=728) |
|
---|---|---|
0円 | 2(0.7) | 104(14.3) |
1~5,000円未満 | 63(22.3) | 345(47.4) |
5,000~10,000円未満 | 81(28.7) | 141(19.4) |
10,000~15,000円未満 | 59(20.9) | 88(12.1) |
15,000~20,000円未満 | 45(16.0) | 29(4.0) |
20,000~50,000円未満 | 26(9.2) | 19(2.6) |
50,000円以上 | 6(2.1) | 2(0.3) |
文献1.より引用
安藤: 負担感が負担額と必ずしも相関しないとなると、負担感をもつのはどういう要因と関連するかということになりますね。
酒井: やはり一番大きいのは「一時的ストーマ」です。身体障害者手帳の交付対象でないため一部を除いてストーマ用品の費用が全額自己負担になりますからこれは当然ともいえるでしょう。
渡邉: 一時的ストーマは緊急手術や小腸ストーマが多いということも関係していると思われます。小腸ストーマは大腸ストーマと比較すると、排泄物の量が多くて水様であることが多いですね。そのため、装具交換間隔が短く、キャップ式排泄口のストーマ袋、用手成形皮膚保護剤などを必要とする場合が多いのでストーマ用品費用が多くなります。
土田: ストーマ保有者は、ストーマ造設の原因になった疾患の治療にプラスしてストーマ用品費用がかかりますから、ますます負担感が強くなります。
三富: ですから、装具選択のときに、製品の特徴や個人の特性に応じたランニングコストを考えて、ストーマ保有者が納得してストーマ用品を購入できるような援助が絶対に必要ですね。
酒井: 負担感ではさらに興味深い関連が考えられました。負担感と相関があるのは、日常生活や社会生活での困った経験、家族関係やストーマを理解してもらえなかった経験などという結果が出ています。ストーマ装具代が高いということだけでなく、そういった要因が相乗的に作用しているようです。その1つが「睡眠の困った経験」との相関です。個人差はありますが、ストーマ保有者は夜間の排泄物のもれや尿路ストーマでは蓄尿バッグの接続など、夜間気にかかることが多いですね。ストーマや排泄を気にしてトイレに起きたり、寝姿勢に注意したり睡眠に影響する要因が多いことが、負担感につながっています。
安藤: もちろん無駄に高くならように装具を選択してもらうのは当然ですけれども、その方にとって必要なものは何かということを、家族も含めてよく説明して納得してもらわなければいけないですね。手術前からあるいは緊急手術でも術後の落ち着いたときに、ストーマをもって生活していく上で必要なお金がかかるということを丁寧に説明して、それ相応の価格における“価値”を理解していただく働きかけを行っていく必要がありますね。
土田: 実際には、外来のオリエンテーションのときに、例えば永久ストーマでS状結腸でつくるコロストミーだから月にだいたいいくらぐらいお金がかかる、医療費以外でこのくらいというお話をされているのですか。
三富・渡邉: やっていますね。月8,600円の給付券ではまかなえない、どれくらいの頻度で交換するかにもよりますが、平均すると1万円以上かかりますよ、と具体的に言っています。すぐに受け入れてくれるわけではなく、「えーっ、医療保険はきかないんですか?」とはよく聞かれますね。
酒井: 金銭的な負担は大きいので、事前のオリエンテーションは絶対に必要だということですね。
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