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2022年1月公開
2回の実態調査を比較して思うこと
『エキスパートナース』編集部
安藤: 日常生活や社会生活では、2回の調査でそんなに大きくは変わっていないということが非常に示唆的だと思いました。つまりストーマ保有者を取り巻く状況は改善も後退もしていないという現実ですね。最後にこの冊子では、自由記載の主立ったものを紹介していますが、これを見るとみんな小さなことでも一つ一つ悩んでいることがよくわかります。もう一つは高齢化の問題です。高齢者でも手術をする、ストーマをつくるというわが国特有の状況下では、アクティビティのことだけでなく、不安や生活面の問題にフォーカスする必要があろうかと思います。SIUPのメンバーはある程度経験値の高いWOCNが集まっているのですが、それでも対象を理解し共感するためには知っておかなければいけない困り事がたくさんあるということを実感しています。この冊子のタイトル『あなたに知ってほしい ストーマとともに生きること』をオストメイトの方々が見れば「ああ、自分だけじゃないんだ」という安心感にもつながりますし、私たちが専門家としてさらに一工夫したアドバイスをするためには多くの人に知っていただきたいと思います。
三富: 私たちがSIUPを結成したきっかけは、ストーマ外来などを行う中で、私たちだけでは解決できない問題を感じていて、ストーマのことが理解されていない社会に対する発信をしようということでした。いろいろな活動を行ってきましたが、自由記載を見ても、人目が気になるとか集まりに参加できないなど対人関係で躊躇されている姿が見えてきます。まだまだ解決できていない現状を考えると、この活動を継続する重要性と、さらに広げていく必要性を感じています。
渡邉: 2回の調査で、「変化があったこと」「なかったこと」がはっきりわかったことに大きな意味があると思っています。社会状況も変化し、消化器がんの若年化も進み、ストーマ保有者の年齢層も変わってきている現状の中で、これだけ縦断的にストーマ保有者にお聞きする調査はあまり行われていないのではないかと思います。この調査の結果をもとに、製品開発であったり認知症者への対応であったり、今までできなかったことを変えられるきっかけになればと思います。
酒井: ストーマ保有者にとって、経済的な問題は大きいということを切実に感じています。2回の調査で着実にデータを積み重ねてきていると思いますので、もう少しその中身を明らかにして、政策に結びつくような働きかけをしていきたいと考えています。もう一つは、ただでさえ外出の機会が制限されているオストメイトが、コロナ禍で在宅時間が増えたことで、家族とのかかわりの中でも新たに困ったことが出てきていないかも調べていきたいと思っています。
片岡: 私は情報発信のあり方について考えさせられました。インターネットがこれだけ普及してどこでも手軽に情報にアクセスできる時代になっても、情報リテラシーには大きな差があって、高齢者が正しい情報を入手する機会が少ないように思います。SIUPはWOCの専門的ナースが集まって情報発信をしているので、利用者に安心感を与えるような信頼できる情報を発信し続けなければいけないと考えています。特に、これから高齢化がますます進んでオストメイトも高齢になりますから、欲しい人に的確な情報をどのような方法で提供するかということを考えていかなければいけない。今後、訪問看護師や介護士の方々がストーマケアをする機会が増えてくることも考慮して、正しい情報の発信源になりたいと思います。
土田: 2回の調査でわかったことは、テクノロジーとして解決できることと、日本の社会・文化的背景としての排泄の受け止められ方として容易に変えることができないものの両方が明確になってきたということです。テクノロジーの進化によって、これまで絶対に無理だと思っていたことでも意外と解決の糸口があって、そこが解決すると連鎖的に解決できる問題もあります。ただ、社会・文化的な背景が変わらないと解決できないこともたくさんあります。そこが明らかになるのは、継続的な調査のアドバンテージだと思います。もう一つは、酒井さんがお話された“負担感”のことです。金銭的な負担感も介護全体における負担感も同じで、金銭的な額の多い少ない、介護量・時間の多い少ないが即負担感につながっているわけではないと思うのです。“負担感”とひとくくりにいえないもの、心理的な負担感がベースにあって、さらにその奥には社会・文化的な背景が確実にあると思います。そういうところまで専門職として踏み込んでいければと思っています。
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