2020/4/2
経腸栄養法は、経口摂取と経管栄養法(tube feeding)に分けられ、経管栄養法のアクセスとして経鼻的なアクセスと消化管瘻によるアクセスの2通りがある。経鼻的なアクセスには経鼻胃カテーテル挿入による“経鼻胃アクセス”がある。一方、消化管瘻アクセスの1つが“胃瘻”で、その造設方法が“PEG”(経皮内視鏡的胃瘻造設術)である。PEGと胃瘻という言葉は混同して使われることが多いが、正しくはPEGは“造設術”自体を指している。
このPEGに対して必要以上に忌避するムードが起こったことがあった。栄養状態が維持・改善できてもADLやQOLの改善効果が期待できない超高齢者、遷延性意識障害、末期の認知症に対するPEGは“単なる延命治療”でしかない、という考え方であった。この考えに基づいて、「PEGは施行すべきではない」という意見が強くなってきたため、日本静脈経腸栄養学会では『静脈経腸栄養ガイドライン-第3版(日本静脈経腸栄養学会編集)』において、「本来PEGを用いた経腸栄養の適応である患者に対して経鼻胃カテーテルを用いた経腸栄養が実施されることが多くなっている」と警鐘を鳴らしている(*1)。同時に、経鼻胃カテーテル施行も慎重に行わないと致死的な事故につながる恐れがある。
「経鼻栄養チューブの誤挿入」に関しては、公益財団法人日本医療機能評価機構が発信する「医療事故情報収集等事業 医療安全情報」でも注意喚起している(*2)。経鼻栄養チューブ(経鼻胃カテーテルと同義)を誤って気道に挿入していたが、気泡音の聴取のみで胃内にチューブが入ったと判断し、栄養剤や内服薬を注入した事例が11件報告された(集計期間:2013年1月1日~2016年10月31日)というものだ。本報告書では以下の2つの事例を紹介する。
[事例1]
医師は、気管切開している患者に経鼻栄養チューブを挿入後、気泡音を聴取し、チューブが胃内に入ったと判断した。その後、看護師が栄養剤の注入を開始したところ、患者は咳き込み、呼吸苦を訴えた。医師は気管孔から気管支鏡を行い、気管内に経鼻栄養チューブが挿入されていることがわかった。
[事例2]
看護師は経鼻栄養チューブを挿入後、胃内容物を吸引できなかったが、他の看護師と2名で気泡音を聴取し、チューブが胃内に入ったと判断した。看護師は、内服薬を注入する前に、再度、他の看護師と気泡音を聴取した。内服薬を溶かした白湯を注入したところ、咳嗽が出現しSp02が80%前後に低下した。胸部エックス線撮影を行い、右気管支に経鼻栄養チューブが挿入されていることがわかった。
これをもとに医療事故情報収集等事業の総合評価部会では、次のように意見具申している。
その確認方法として推奨されるのが、認定病院患者安全推進協議会の「提言:経鼻栄養チューブ挿入の安全確保」(2006年3月31日掲載)に基づいた胃内容物の確認である(*3)。
[提言]経鼻栄養チューブ挿入の安全確保
引用文献
*1 日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン-第3版.照林社,東京;2013:18.
*2 公益財団法人日本医療機能評価機構:経鼻栄養チューブの誤挿入.医療事故情報収集等事業医療安全情報.No.121(2016年12月)
*3 認定病院患者安全推進協議会:[提言]経鼻栄養チューブ挿入の安全確保.2006年3月31日掲載.
詳しくは、下記の各Webサイト参照
・日本医療機能評価機構「経鼻栄養チューブの誤挿入」
http://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_121.pdf
・認定病院患者安全推進協議会「提言:経鼻栄養チューブ挿入の安全確保」
https://www.psp-jq.jcqhc.or.jp/download/649?wpdmdl=649
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