2021/5/11
一般社団法人日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)は、2015年10月から始まった医療事故調査制度に基づいて、医療の安全を確保し医療事故の再発防止を図ることを目的に活動している。
制度開始となった2015年10月~2020年6月までの4年9か月の間に、同センターに報告された医療事故の院内調査結果報告書は1,456件に上る。そのうちの13事例にあたるのが、胃瘻造設(7例)・カテーテル交換(6例)にかかわる死亡事故であった。同センターはこれらを分析し、「胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析」をまとめ、後述する6つの提言を示した。
胃瘻を必要とする患者は、高齢者や疾患をもつ患者、身体的な障害がある方など、全身状態が必ずしもよいとは言えない場合も多く、合併症により出血性ショックや腹膜炎といった重篤な状態に陥るリスクも高い。起こりうる合併症への備えに加え、胃瘻造設による経腸栄養効果と合併症リスクの双方を鑑み、その患者にとっての適否を慎重に検討することが望ましい。
また、PEG実施後やカテーテル交換後は腹腔内の目視確認はできないことから、内部でカテーテルの逸脱や穿孔等を生じていないかどうかについても注意深い経過観察が求められる。特にカテーテル交換後はあまり時間を置かずに医療機関から自宅や施設に戻ることも多く、家族や施設職員にも注意すべき徴候を伝えておく必要がある。
「胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析」では、このような背景を受けて下記の6つの提言を示している。本ニュースでは、特にナースが注意したい点や把握しておきたい点についても補足しているため、合わせてご参考いただきたい。
【術後合併症リスクへの術前の備え】
提言1:抗血栓療法(抗凝固薬・抗血小板薬の使用)中の場合や低栄養状態などは、胃瘻造設術におけるリスクとなる。胃瘻造設術では、依頼医師と造設医師が連携してリスクを共有する。
●PEGの適応となる患者は、そもそも上記に上がった抗血栓療法中や低栄養状態といったハイリスク状態であることが多い点を認識しておきたい。
●抗血小板薬の休薬の有無は、原疾患へのリスクもふまえて検討される。休薬を行わない場合は出血リスク、減量や休薬を行う場合は新たな梗塞リスクなどを考慮し、アセスメントを行う。
●低栄養状態の改善のために術前の中心静脈栄養療法や経鼻胃管による経腸栄養療法が行われる場合もある。BMIや血清アルブミン値などを把握しておきたい。
【造設位置とカテーテル逸脱の防止】
提言2:瘻孔に過度の張力がかかると、後日のカテーテル逸脱につながる。特に、側彎、四肢拘縮がある患者では、造設位置が限局され瘻孔への張力がより強くなる可能性がある。過度の張力がかかると判断された場合は、代替方法を検討する。
●日常的に患者と接する機会の多いナースが、患者のとりやすい体位や生活パターンなどを造設医師と共有することで、瘻孔に張力がかかりにくい位置を決めやすくなる。
●四肢の拘縮によって腕が腹部にかかっている場合などは胃瘻の造設位置が限られることがある。できるだけ長期的に使用しやすい部位に造設できるよう、日ごろから拘縮の予防・改善に努めたい。
【出血への対応】
提言3:抗血栓療法中の患者の出血は、短時間で致命的になる場合がある。内視鏡を抜去する前に、ガーゼやストッパーで胃壁と腹壁の圧迫の調整を繰り返し、止血状況を確認する。出血が持続する場合は、内視鏡的止血術や「全層結紮」が有効である。
●術直後は、バイタルサイン、嘔吐、下痢、腹痛などの症状や排泄物の性状、創部のガーゼ汚染などの経時的な観察が必須である。特に、抗血栓療法中の場合は、経時的な血圧や脈拍測定を行うことが重要である。異常を発見した際はただちに医師に報告し、腹部CT検査等につなげる。
【胃瘻カテーテル交換の手技】
提言4:胃瘻カテーテル交換時には、抜去や再挿入手技で瘻孔が破綻する可能性がある。カテーテルの誤挿入を防ぐため、ガイドワイヤーなどで胃内と体外を交通させた状態にして挿入することが望ましい。
また、胃瘻カテーテル交換後は、正しく胃内に留置されたことを着色水による注入液体回収確認法(以下「スカイブルー法」)や X線造影検査などで確認する。
●一般的に、バンパー型のカテーテルのほうが、交換時期も長く自然に抜けにくい一方で、バルーン型よりも瘻孔損傷をきたしやすいことを認識しておきたい。
●カテーテル先端が胃内に留置されているかどうかは、胃内容物の吸引でも簡便に確認することができるが、持ち運び可能な経胃瘻内視鏡やスカイブルー法による確認が在宅でも取り入れやすく、より確実性が高い。
【胃瘻造設・カテーテル交換における注入時の観察と対応】
提言5:初回注入以降に、発熱、腹痛、嘔吐、顔面蒼白、呼吸促迫、苦痛様顔貌などの症状を認めた場合は、まず腹膜炎を疑い対応する。
●可能な限り、胃瘻カテーテル交換を実施した医療機関で初回注入の安全性まで確認することが望ましい。施設や在宅に戻ってから初回注入となる場合は、異常時にすみやかに医療機関につなげられるように備えておく。
●胃瘻造設となる患者は、高齢者や障害のある方など意思疎通が困難な場合も多い。呼吸状態や表情など、不快な症状がある際の非言語的サインを日ごろから把握しておき、関係者と共有しておくことが望ましい。
【地域連携体制の整備】
提言6:胃瘻を造設している患者の管理は2か所以上の施設が担当していることが多いため、平常時から胃瘻情報共有ツール(胃瘻手帳など)を活用し、必要な情報を患者・家族を含め施設間で共有することが有用である。
●胃瘻造設後は長期管理が必要であり、以下のような情報を共有しておきたい。
造設時の状況 | 造設した医療機関と担当医、造設年月日、製品情報やサイズ・型、造設の目的、交換の予定など |
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交換時の状況 | 交換した医療機関と担当医、交換年月日、製品情報やサイズ・型、次回交換の予定など |
平常時の状況 | 栄養剤の種類、1日量、注入スケジュール、注入速度、注入時の腹部症状や逆流症状など |
緊急時に必要な情報 | 現在の症状、造設/交換から何日後/何時間後に症状が発現したか、注入の有無や時間・量など |
詳しくは、下記の日本医療安全調査機構Weサイト参照
https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/teigen13.pdf
【関連ページ】
●胃瘻(PEG)トラブルを防いで、的確な栄養管理を行う
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