2022/2/16
咀嚼機能の低下は、さまざまな健康への悪影響を生じることが近年わかってきている。2016年には、咀嚼能率(ものを細かく噛む能力)の低下した人はメタボリックシンドロームの罹患率が高い、という研究結果が発表された。これは、新潟大学および大阪大学をはじめとした共同研究グループによって示されたものであるが、この度、同研究グループでは、咀嚼能率の低下がメタボリックシンドローム罹患リスクになり得るかを探るべく、調査を行った。その結果、咀嚼能率が低い場合、メタボリックシンドロームの新規罹患率が男性のみ有意に上昇することが明らかになったという。
本調査では、大阪府吹田市の地域住民から性年代階層別に無作為抽出された「吹田研究(*1)」の対象者の一部を対象としている。2008年以降に健診受診した50~70歳代に歯科検診を実施したうえで、調査期間内に2回受診した937人のうち、初回検査時にメタボリックシンドロームではなかった599人(男性254人、女性345人)を分析対象にした。
咀嚼能力を客観的に測定するためには、専用に開発されたグミゼリーを用いている。グミゼリーを30回噛んで増えた表面積を算出し、下位1/4を咀嚼能力「低値群」、それ以外を「非低値群」とした。
追跡期間での新たなメタボリックシンドローム罹患数は、88名であった。性別ごとでみると、女性の場合は咀嚼能率「非低値群」に対し「低値群」での罹患率は1.14倍と、統計学的に有意な差は認められなかった。一方で男性では、同罹患率はおよそ2.24倍と、「低値群」で有意にメタボリックシンドロームの罹患リスクが高いことがわかった。さらに、構成要素についても、男性では血圧高値が3.12倍、高中性脂肪血症が2.82倍、高血糖が2.65倍と、有意なリスク比が得られた。
これらの結果から、男性では咀嚼能率の低下に伴い、メタボリックシンドローム罹患のリスクが上昇することが示唆された。なぜ性差がみられたのかについては、女性の閉経期以降のホルモン変化や、食習慣の違いなどが可能性として挙げられている。
「よく噛んで食べる」ことの大切さは、従来より食育や健康増進においても広く説かれてきたが、今回の調査において、咀嚼能率の測定方法を規格化したうえで、メタボリックシンドローム罹患リスクとの関連を世界で初めて示したこと、さらにそのリスクには性差があることがわかったというのは、非常に興味深い結果である。近年では予防医学の重要性がますます叫ばれており、新たなメタボリックシンドロームのリスク因子としてわかった「男性での咀嚼能率の低下」は、今後、予防的指導や改善プログラムの提案につながるものと期待される。
*1 我が国の循環器疾患予防対策を推進するため、国立循環器病研究センターと大阪府吹田市医師会により平成元年から開始された研究。
詳しくは、下記の新潟大学Webサイト参照
2021年12月21日ニュース「よく噛めない男性はメタボになりやすかった!-4年間の追跡調査により世界で初めて判明-」
https://www.niigata-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/12/211221rs1.pdf
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