2022/11/16
一般的に、加齢とともに徐々に聴力は低下していく。それに伴い、聞き取りにくさや何度も聞き返さなければいけない億劫さから、人との会話やかかわりが減ったり、抑うつ気味になるなど、認知機能や精神面への悪影響が心配される。
近年では、難聴は認知症のリスク因子としても知られている。これまでの研究からも、客観的な測定から判定される加齢性難聴や、「耳が聞こえにくい」という主観的評価での難聴が、高齢者の健康に悪影響を及ぼすことが報告されてきた。
東京都健康長寿医療センターの研究グループでは、高齢者における客観的測定による聴力と、主観的な耳の聞こえの乖離の程度を検討した。その結果、客観的測定では中等度以上の難聴と判定されるにもかかわらず、耳の聞こえには問題がない、と回答するような高齢者では、身体・認知機能が低い傾向にあることを明らかにした。
本研究では、オージオメータを用いて聴力を測定し、正常聴力者、軽度難聴者、中等度以上の難聴者の3群に対象を分類した。さらに、「耳は聞こえにくいですか」という質問に対して「はい」と回答した方を、主観的難聴者と定義した。
その結果、軽度難聴者の63.5%、中等度以上の難聴者の22.2%には、難聴の自覚がない(主観的難聴が認められない)ことが明らかとなった。
聴力と合わせ、対象の歩行機能、認知機能、抑うつ傾向についても測定を行ったところ、客観的な難聴レベルが上がるにつれ、歩行機能と認知機能レベルは低くなる傾向が確認された。さらに、中等度以上の難聴者では、主観的難聴がある方に比べ主観的難聴がない方のほうが、歩行機能と認知機能が有意に低いことがわかった。
また、客観的測定による難聴の程度にかかわらず、主観的難聴がある方は、抑うつ傾向が高いことが明らかとなった。
同研究グループは、「個人によっては聴力検査から定義される難聴と自身が感じている難聴の程度には乖離が生じており、その乖離が心身機能レベルを反映しているとともに、主観的な難聴の訴えが特異的に示す心の変化がある可能性が示された」としており、健診などで客観的測定と主観的測定の両者を行うことが、健康レベルを把握するうえで有効であると考えられる、と結んでいる。
患者・利用者、そしてその家族とかかわる機会が多い看護師・介護士は、日ごろの会話をきっかけに客観的あるいは主観的な聴力低下に気づくことができる機会もあるだろう。聴力低下がもたらすリスクを理解し、必要に応じて専門医につないだり、聴力が低下した方でも聞き取りやすい手段を家族とも共有するなどの対応が求められる。
詳しくは、東京都健康長寿医療センターWebサイト(2022年9月28日<プレスリリース>「自身の加齢性難聴の進行を認識していない高齢者ほど心身機能が低い -客観的測定による難聴と主観的難聴が乖離する高齢者の特徴-」)参照
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●認知症患者への具体的看護ケアの実際
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