2024/7/23
北里大学、慶應義塾大学の研究グループは、飲水不足が腸内環境を悪化させ、病原細菌の排除能を低下させることを発見したと発表した。
人体の50%以上は水で構成されており、水分摂取不足は代謝性疾患の発症や早期死亡などと関連することがこれまでに報告されている。また、飲水量が多い人と少ない人では、一部の腸内細菌の存在量に違いがあることや、便秘症患者での免疫細胞集団の構成変化が報告されている。このような腸内細菌叢や免疫系を中心とした腸管に水分摂取不足がもたらす影響を調べるため、同研究グループでは、水分摂取量を制限した際の腸内環境の詳細な解析を行った。
本研究では、自由に水分摂取が可能なマウスと、25%または50%の飲水制限を2週間実施したマウスとで比較を行った。
飲水制限マウスでは体重低下や糞便水分量、糞便排出量の低下が見られ、50%飲水制限マウスでは、大腸通過時間が2倍近く延長していた。一方、血液中の脱水パラメータにはいずれのマウスでも変化は認められず、飲水制限マウスでは脱水症状を伴わずに体重低下や便秘症を呈することが明らかになった。
また、腸内細菌叢への影響については、飲水制限マウスで糞便中の細菌量が有意に増加していたのに加え、大腸粘膜の粘膜層がぼやけ、一部の粘膜層が途切れていることがわかった。さらに50%飲水制限マウスでは、局所的に細菌が大腸上皮組織内へ侵入していることもわかり、飲水制限によって大腸の物理的バリアが破綻される可能性が示唆された。
さらに、飲水制限によって病原細菌の排除や腸内細菌制御に特に重要な役割を担う免疫細胞Th17細胞の減少が生じること、感染が生じた際も正常に誘導されないことがわかった。Th17細胞の分化・維持には、アクアポリン3を介した細胞内への水の流入が必要である可能性が示唆された。
これらの結果から、十分な水分摂取が腸内細菌叢や免疫系の恒常性、ひいては、腸管病原細菌に対する防御応答を維持するための重要な因子であることが示された。
同研究グループは、今後は、水分摂取量の低下が実際にヒトにおいて腸管感染症や腸管関連疾患の病態に影響するかどうか、検証していく必要があると述べており、日常的な水分摂取量と消化器系疾患との関連性について明らかにしていくことが、水分摂取の潜在的な重要性を腸内環境の恒常性維持という観点から理解する上でとても大切であると結んでいる。
特に高齢者において水分摂取量が不足しがちであることは、臨床においてもしばしば感じることだろう。高齢者は喉の渇きを感じにくくなっていたり、「トイレに行く回数を減らしたい」といって水分摂取を控える方も多い。水分摂取不足は便秘や尿路感染、脳梗塞や心筋梗塞などのリスク因子になるのに加え、今回の研究では免疫系への影響も明らかになった。
1日の必要水分量はおよそ2.5Lとされており、飲水量としても1.5L程度をめやすとしたいところである(飲水制限がある患者は医師からの指示量を守る)。水分を摂ることの必要性を本人や家族に伝え、具体的な量のめやすを伝えるとよいだろう(例:少なくとも、食事のときや食間にコップ1杯ずつ、など)。
詳しくは、下記の学校法人北里研究所Webサイト参照
・学校法人北里研究所
「十分な水分摂取は腸内細菌叢と免疫系の恒常性を維持し腸管感染症に対する防御能を高める
-腸内環境の維持に飲水が重要であることを発見-」
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