2024/8/20
近畿大学病院と近畿大学医学部の研究グループは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)への治療に用いられる吸気筋トレーニング(IMT)の効果を検証し、このトレーニングが横隔膜機能を改善させ、全身の持久力向上や歩行時の呼吸困難感に対して有効に働くことを証明したという。
COPDの患者では肺の弾力性の低下がみられる。特に運動時に息をしっかり吐き出せず、肺に空気が溜まることで肺が過度に膨らみ、横隔膜が正常に機能しなくなることで、呼吸困難や息切れの原因となる。
COPDの治療のひとつとして、吸気筋トレーニング(IMT)が挙げられる。呼吸筋トレーニングの一種である吸気抵抗負荷法は、一方弁で仕切られた筒状の器具で、吸気筋のみに抵抗を段階的に負荷する方法である。本トレーニングによって、COPD患者に対して、最大吸気圧、呼吸筋耐久力、漸増負加圧、運動耐容能、呼吸困難感等の項目で改善が得られるとされている。しかし、吸気の主要な筋肉である横隔膜に対して、本トレーニングがどのような効果があるかはこれまで明らかになっていなかった。
同研究グループは、横隔膜機能が低下しているCOPD患者がこのトレーニングを行うことで、横隔膜の可動性等が改善されると仮説を立て、研究を実施した。
近畿大学病院に通院する、病状が安定したCOPD患者29名(IMT群15例、対照群14例)を対象に、非盲検ランダム比較試験を実施した。
標準化された12週間の呼吸リハビリテーションプログラムの後、在宅治療を中心としたIMTと理学療法士が監督する低頻度(2週に1回)の外来呼吸リハビリテーションセッションからなる12週間のIMTプログラムを受けた患者群と、対照として、低頻度の外来呼吸リハビリテーションのみを受けた患者群で比較を行った。
IMTプログラム実施後、横隔膜移動距離は以下のとおりIMT群で増加したが、対照群では増加がみられなかった。
・IMT群:実施前50.1±7.6mm→実施後60.6±8.0m、p<0.001
・対照群:実施前47.4±7.9mm→実施後46.9±8.3mm、p=0.10
また、IMT群では、運動耐容能(PeakVO2)や運動中の換気応答(VE/VO2、VE/VCO2)、運動時の1回換気量に改善がみられ、歩行時の呼吸困難感も軽減した。本研究により、12週間の在宅治療を中心としたIMTにより、COPD患者の横隔膜の可動性を改善させられることが初めて証明された。
同研究グループは、今後はCOPD患者以外で、横隔膜機能低下が報告されている間質性肺疾患患者にも着目し、COPD患者の横隔膜移動距離と換気パラメータの比較を行うとともに、各疾患の特性を明らかにし、本研究と同様にIMTの効果について調査を進めると結んでいる。
CODPが進行した際にみられる呼吸困難感は、「陸上で溺れているよう」とも言われ、患者にとって大きな苦痛となる。在宅中心で取り組むことのできるトレーニングと合わせ、日常生活を送るなかでできる呼吸リハビリテーションや、息苦しさをやわらげられる呼吸法や身体の動かし方、体勢の取り方なども伝えることで、患者のQOLの改善にもつながるだろう。患者指導においても取り入れていきたい。
詳しくは、下記の近畿大学Webサイトを参照
「慢性閉塞性肺疾患患者に対する吸気筋トレーニングの効果を検証 横隔膜移動距離が吸気筋トレーニングの評価項目として有用と証明」
【関連ページ】
●“息苦しさ”をもつ慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんに対する呼吸リハビリテーションの実際
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/2005/
●「ディアケア プレミアム」
息苦しさ(呼吸困難感)をやわらげる呼吸リハビリテーションの実際
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat06/theme002/index.html
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