ナースが知っておきたい 栄養の基本と栄養サポートの進め方

著・若草第一病院 院長 山中英治

2019年1月公開

Part1 栄養の基礎

5.栄養投与経路の種類と適応

栄養投与経路は、健常時は経口栄養のみです。ただし、経口栄養においても摂食・嚥下障害や咀嚼障害などの理由で、摂食・嚥下訓練、口腔ケア、食形態の工夫などが必要になるケースもあります。

経口摂取が不可能な場合、消化管に異常がなければ経腸栄養(EN:enteral nutrition)を行います。経口栄養、経鼻経管栄養、PEGなどの経胃瘻栄養、経空腸瘻栄養は、すべて腸から栄養を吸収しますので経腸栄養です。

例えば、脳血管障害後遺症で経口摂取が不可能となった場合は、まず経鼻経管栄養が行われ、長期になるようなら胃瘻からの経腸栄養が行われます。経口摂取回復の見込みがあれば、摂食・嚥下訓練を行い、経口摂取が徐々にできるようになれば、経口摂取で不足する分を経腸栄養で補完します。絶食の期間も口腔機能の廃用予防と清潔を保つために口腔ケアを行います。

腸が使えない場合は静脈栄養を行います。静脈栄養には末梢静脈栄養と中心静脈栄養があります。末梢静脈からの輸液においては、高濃度の高カロリー輸液は、前述の浸透圧などの関係で、すぐに静脈炎を起こして血管が破綻するので不可能です。上大静脈のような太い中心静脈に投与する中心静脈栄養であれば、血管も太く、高濃度の輸液もすぐに希釈されるので、高カロリー輸液(TPN:total parenteral nutrition)が可能です。栄養投与経路の選択の基本的な考え方を図15に示します。

図15 栄養投与経路の選択
図15 栄養投与経路の選択の参照画像

消化器がん術後などの短期間の絶食期間であれば、すぐに経口摂取が再開できるので末梢静脈栄養の適応です。2週間以上絶食になる場合は、高カロリー輸液の適応とされています。

中心静脈栄養の絶対適応は、大量に小腸を切除した短腸症候群、腸閉塞、縫合不全が原因の消化管瘻、重症急性膵炎、炎症性腸疾患の重症例などです。他にも末梢静脈が脆弱で、毎日末梢静脈栄養カテーテルを刺し換えている場合などは、穿刺の苦痛を減らすために中心静脈カテーテルを留置することもあります。

経口摂取以外の経管経腸栄養、静脈栄養は、すべて狭義の強制栄養ですが、患者本人の希望であれば「強制」栄養とはいえないかもしれません。数年前に、本人の意思によらない強制栄養が批判されました。特に、PEGが槍玉にあがったのは、外国ではあまり行われていないことも要因です。確かに、老衰や高齢者の認知症で、全身が年齢相応に衰弱して食べられなくなった場合は、寿命と考えるべきと思います。もちろん、本人のしっかりした意思で強制栄養を希望されるのであれば、断ることはありません。

老衰では、たとえ強制栄養をしても、若返って復活することはありえません。高齢者の認知症で、本人が嫌がっているのに、むりやり食物を口に入れるのも非人道的と思われます。
高齢者に対する胃瘻栄養や静脈栄養などの強制栄養は、本人の意思が確認できなければ、強制栄養によって再び元気になるのか? 栄養投与で本人にとっての今後の人生がよくなるのか? ということを、家族とともによく話し合って行うべきでしょう。家族の都合や社会的要因で行うべきではないと思います。

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