Part1病いとともに暮らす人を支える

認定NPO法人神戸なごみの家 理事長
松本京子

一部会員限定
ページあり!

2024年3月公開

5.COVID-19が看取りに及ぼした影響

2020年1月15日、国内で初めて新型コロナウイルス(COVID-19)による感染者が確認されました。その後、またたく間にCOVID-19はパンデミック(世界的な大流行)を引き起こし、看取りの場にも大きな影響を及ぼしました。

感染拡大を避けるため、病院や高齢者施設では外部との面会を厳しく制限。直接会うことも、触れることもできないまま最期を迎え、遺骨になって初めて家族に対面するという厳しい現実が待っていました。感染者への訪問看護の現場では、明らかに悪化する経過に「このまま家で死なせてほしい」と懇願する人、順調に経過していた人が急変し救急搬送したもののその数時間後に亡くなったことを経験しました。

病院や施設で禁止された面会が病院関係者の努力により1人20分という限定された方法で許されるようになったのは、COVID-19の感染流行が始まってから2年が経過し、減少傾向になってからでした。COVID-19でも家族から看取りを遠ざけるを得ない事態になりました。

1.面会制限せずに看取り支援を継続

私たちが運営しているホームホスピスは1軒に5~6人と小規模で民家を活用しており、もともと換気が行き届く構造でした。コロナ禍においては、普段以上に掃除を徹底し、各部屋や廊下にもサーキュレーターを設置し、より一層換気に努めたことで、面会制限をしないで今日まで経過しましたが、内部での感染者は発生していません。

施設の大規模化と効率性を優先して、将来の高齢社会に備えようとする社会の流れの中で、小規模で1人ひとりの暮らしを取り戻し、看取りを地域に取り戻すムーブメントとして始まったホームホスピス。「なごみの家」は空き家となった日本家屋を活用する環境に助けられ、面会制限を一度も講じることなく、通常どおり、本人と家族を主体とした看取り支援を継続することができました。

19世紀に生きたナイチンゲールは、劣悪な戦場での看護を経験する中で傷病兵の死亡率は戦禍によるけがではなく、劣悪な環境による感染症であると統計学を駆使して伝えています。時代背景は大きく異なりますが、COVID-19の感染流行をきっかけに、大規模で効率性を求めてつくってきた療養環境の課題が浮き彫りになりました。感染が拡大し、COVID-19感染者以外も面会禁止とされた中での看取りのニュースに、本人と家族が最期に何を語り合いたかったのかと考えると、あらためて抵抗力のない高齢者の住まいや療養場所の環境の整え方について考える機会となりました。

2.電話では伝わらなかったこと

当時メディアでは、面会できなくなった家族に対し、少しでも入院中の家族の様子がわかるように医療機関がさまざまな工夫をしていることが取り上げられていました。電話で病状を家族に伝えることもその1例です。感染予防と治療の継続で多忙を極める中、大変な取り組みだったと思います。

父親を看取るために「なごみの家」を訪れたある家族も、入院中は再三病院から電話があり、父親の様子を教えてもらっていたそうです。ただ、「食事が摂れないことなどを知らせてもらっていたが、それが何を意味するのかわからなかった。経過がイメージできなかったから、退院した父親の姿を見て、こんなに弱っていたのかと驚いた」と話されました。残された時間があまりにも短いとわかり、悲しまれていたのです。

翌日には本人が「なごみの家」に入居し、家族は、これまで会えなかった時間を取り戻すかのように毎日孫やひ孫を連れて来所されました。本人は認知症の妻を思いやり、娘さんに「母さんを頼む」と伝え、最期のバトンを渡されました。

3.遠ざかっていた死が身近に

COVID-19は世界中にさまざまな衝撃をもたらし、今でも完全に消滅していません。私たちは「死」という突然の悲しみに遭遇し、遠ざかっていた死を身近に感じることになりました。自分のいのちをどのように生きるのか、人生の終末期と向き合い、死について話し合う習慣を取り戻すきっかけになったのではないかと考えています。逝く人と残される家族の最期の期間を見守っていきたいと願っています。

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