2024年3月公開
死亡場所の統計を見ると、自宅での死亡者数はわずかに増加傾向にありますが、これには在宅看取りだけでなく、孤独死といった在宅での異状死も含まれます。
独居で、日ごろからかかりつけ医や在宅サービスとのつながりがない事例は、発見された時点で死因特定のため警察による検視が行われます。地域には、親族とのつながりや近所付き合いもない独居の人が多く存在しています。地域に暮らす誰もが孤立することなく、必要に応じて必要な支援を受けられるような地域共生社会の構築が急がれます。
私たちがホームホスピスを運営する目的は、家を用意し、暮らしの中で看取りをすることではありません。その最終目的は、ホームホスピスを拠点とした地域づくりを推進し、「看取りの文化」を地域に取り戻すことにあります。
その足掛かりとして、地域の人たちが自由に利用できる「暮らしの保健室」も運営しています。利用者は、ほぼ独居の後期高齢者(主に80歳以上)の方たちです。毎日来所する人もいれば、ランチや体操教室、老い支度(じたく)教室といったプログラムへの参加を希望して来所する人もいます。
「暮らしの保健室」は、誰でも予約なしに無料で、健康や介護、暮らしの中でのさまざまな困りごとの相談ができる場です1。2011年に訪問看護師の秋山正子氏が初めて開設し、その活動は全国に広がっています。秋山氏は暮らしの保健室の機能について以下の6つを示されています2。
暮らしの保健室は自分らしい人生を歩むためにさまざまな情報を得て、仲間とともに人生100年時代をどう過ごすかを学び合う場です。開設して以降、少しずつ利用する人が増えてきました。この場所に集まり日々の困りごとや健康に対する不安を語り合う中で互助関係を構築し、住み慣れた地域での支え合いにつながると考えています。誰かが病に倒れれば見舞い合い、仲間の死を隠すこともありません。死にゆく過程を受け止め、近い将来訪れる自分自身の最期を考える機会としてとらえているように感じます。
こうした関係は、見守り、見守られる関係にもつながっています。例えば、毎日保健室に来る人が顔を見せなければ、誰かが自宅まで様子を見に行きます。実際に自宅で倒れている友人を発見に至った事例も経験しました。また、入院している仲間にはスマートフォンを使って「早く帰っておいで」とメールを送り、退院後は体力が回復するまで皆さんが交代で保健室まで送迎しています。
暮らしの保健室で知り合った人同士の中に、着実に互助関係が構築されてきているようです。ホームホスピスや保健室を通じて地域に根差した支援を積み重ねることで、最終的には誰もが孤立せずに、安心して暮らせる社会につながればと願っています。
暮らしの保健室の活動や事例を通していくつか見えるようになってきたことがあります。例えば、高齢者はある年齢に達すると死から目を背けるのではなく、自ら意思をもって考えているということ。また、日ごろから死について考え、住み慣れた地域で最期まで過ごすにはどうしたらよいかを語り合う場所があると仲間の姿から学び合う力があるということです。
一方、暮らしの保健室に来る人たちの子ども世代は日々の生活を支える仕事や家事、育児に懸命に取り組んでいます。忙しく過ごす中で、地域の講演会や居場所づくりの活動に触れる機会がほとんどありません。家庭でも地域でも死や意思決定について知る機会が少ない現状があります。若い世代にも保健室を気軽に利用してもらい、世代を超えて交流できる場にしなければと感じています。
病院完結型の時代は、患者として病院を訪れる人を対象に医療やケアを提供していました。訪問看護師になって在宅医療に携わり、地域に目を向け地域づくりに取り組むようになると、何を支援すべきか多くのことが見えてきます。制度の枠組だけではこの超高齢社会を乗り切るのは難しいと思うこともあります。
地域包括ケアシステムの土台となる「自助」や「互助」は、暮らしの保健室のような地域に根差した働きかけがないと築けない時代かもしれません。
引用文献
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