Part1在宅における服薬管理と訪問看護

医療法人社団悠翔会 理事長
佐々木淳

一部会員限定
ページあり!

2024年12月公開

1.服薬管理において看護師に求められる役割

在宅医療・訪問看護の目的は、本人やご家族にとって「安心できる生活、納得できる人生」をサポートしていくことです。そのためには患者ごとに最適な療養生活支援を考えていく必要があります。
在宅患者の多くは複数の慢性疾患や障害とともに生きています。生活を支援していくうえで、これらに対する医学管理が必要です。在宅における医療的介入の多くは薬物療法です。したがって、在宅患者の健康管理・疾病治療においては服薬管理がとても重要になります。

服薬管理において、訪問看護師に求められる役割は大きく3つあります。

1.処方された薬を安全・確実に服用させること

  • 安全な剤形・投薬ルートを検討する:嚥下障害がある場合には、錠剤の粉砕や脱カプセルなどが必要です。また、状況に応じて内服以外の投与ルートを検討します。
  • 飲み忘れ・失敗を減らす:服薬カレンダーによる管理支援、一包化などにより、服薬できたかを確認できるようにするとともに、服薬作業を簡素化します。
  • 用法・用量をシンプルに:日本老年薬学会は、高齢者の内服を「昼食後1回」にまとめるよう提言しています。服用薬剤数・服薬回数が増えれば増えるほど、服薬介助にかかる労力は大きくなり、事故のリスクも増えていきます。抗血小板・抗凝固療法、ホルモン補充療法、血圧や血糖のコントロールなど、重要な薬の多くは1日1回で対応が可能なものが多いはずです。安全な服薬という観点からも、最適な薬物療法=処方の最適化を医師・薬剤師とともに考えていきましょう。

2.薬物療法の効果や副作用を管理すること

薬を安全・確実に飲ませることは大切ですが、そもそも何のために治療をしているのか、考えてみましょう。その薬に期待している効果=治療の目的は何でしょうか? 例えば、90歳の要介護高齢者の血圧やコレステロールを厳格にコントロールする必要があるでしょうか。アルツハイマー型認知症の中核症状に対する治療薬の投与が必要でしょうか。
何のために治療をするのか、治療によって得られる利益と、生じるかもしれない不利益のバランスを常に意識する必要があります。

また、療養の経過中に、新しい症状・予期せぬことが生じることがあります。このようなとき、新しい病気が生じたのではないかと考える前に、まずは薬の副作用を疑うようにしましょう。食欲低下、不眠、傾眠、不隠、浮腫、血圧の変動、肝機能・腎機能障害…薬の作用によってさまざまな症状が出現することがあります。特に複数薬剤を服用している患者については、新しい治療薬を追加する前に、今飲んでいる薬の副作用が原因ではないかとまず疑ってみましょう。
また、副作用のなかには迅速な対応を要するものもあります。緊急性に応じた対応ができることも重要です。

3.医師・薬剤師をはじめとする多職種にフィードバックすること

処方権限があるのは医師ですが、医師は診療頻度が低く、患者との時間的接触も短く、症状の変化が十分に把握できていない、薬物療法の効果や副作用を十分に評価することができていないことも少なくありません。ケアの現場での気づきがあれば、早めに医師に伝えてください。医師に連絡が取りにくい場合には、薬剤師と情報共有します。
判断の結果、処方変更が生じた場合には、特にその後2週間程度は慎重にフォローアップを行います。処方変更の際には、処方の過不足が生じないよう、薬剤師と連携します。

2.高齢者に対する薬物療法の一般的な留意点

特に要介護高齢者への薬物療法は、一般成人とはさまざまな相違点があります。

  • 治療のゴールが異なる:一般成人・健常な高齢者は健康寿命の延伸と疾病治癒をめざしますが、要介護高齢者はすでに健康寿命を終えています。「より長く」よりも「より良く」生きることを優先したいと考える人が多くなってきます。
  • リスク要因が異なる:一般成人・健常な高齢者のリスクは動脈硬化性疾患(脳血管障害や心筋梗塞など)です。したがってメタボリック症候群・生活習慣病の管理が重要になります。しかし、要介護高齢者のリスクは脆弱性疾患(肺炎・骨折など)であり、低栄養・サルコペニア・フレイル対策が重要になります。ポリファーマシーはこれらのリスク要因となります。
  • 認知機能・生活力が低下している:在宅高齢者の多くは多疾患をかかえており、病気ごとに主治医をもつと、どうしても薬の数が増えていきます。しかし、服薬にも支援が必要となり、本人の内服の負担も大きくなります。処方も用法・用量もシンプルにすることを意識します。
  • 薬の副作用が出やすい:高齢者は典型的でない(特異的でない)副作用が出ることがあり、注意が必要です。特に病気や老化が進んだように見える状況(薬剤起因性老年症候群→Part3を参照)が、実は薬の副作用であった、ということは少なくありません。病気の進行なのか、薬の副作用なのか、見分けが難しく、症状に対して新たな処方を重ねていくことで、さらに新たな症状が出現し…という悪循環(処方カスケード)が起こりやすいので、注意が必要です。

3.在宅で薬物療法を円滑にするためのポイント

最後に、在宅における薬物療法を円滑にするための3つのポイントをご紹介します。

1.処方の最適化

  • 薬物療法によって得られる利益と不利益のバランスを考える
  • 医学モデル的最適化:心身の機能や病状に応じて調整する
  • 生活モデル的最適化:人生のフェイズ(残り時間)、本人の優先順位に応じて調整する
  • ただし、最適化=必ずしも「減薬」ではない点にも留意する

2.予期される変化への対応(事前指示)

  • 予防的投薬/頓服薬の配備
  • 代替薬・代替選択の準備

3.服薬ミスが生じた場合の対応の事前準備

  • 事前に医師と相談して、絶対的必要性に応じて薬を分類しておく
    (A:必ず飲む/B:できるだけ飲む/C:無理には飲まなくてもいい)
    飲むのが大変、薬を落とした、飲んだかどうか覚えてない…そのようなときにどうするかを事前に考えておけば「服薬事故」として慌てる必要がなくなります。
  • シックデイルールを明確にしておく
    特に、食べられないとき、発熱時などの血糖コントロールをどうするかなどは、事前の指示を確認しておきましょう。

難しく考える必要はありません。
「残された時間は長くはない。この時間を本人にとって一番幸せなものにするために、薬物療法はどうあるべきか」
そう意識しながら患者さんにかかわっていくことができればよいのだと思います。

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