2024年12月公開
6.便秘
1.便秘の基本知識
高齢者の便秘は、加齢による生理的変化に加え、さまざまな要因が複合的に関与して発生することが多くみられます。このため、加齢による生理的変化、排便にかかわる生活習慣、注意すべき疾患や薬剤について整理することが重要です。
1生理的変化・生活習慣と便秘
- 腸の蠕動運動の低下により便が腸内をゆっくりと移動し、便から水分がより多く吸収され、便が硬くなります。
- 喉の渇きを感じにくくなるため水分摂取量が減り、便が硬くなります。
- 食欲が低下し、食事摂取量が減ることで食物繊維が不足しやすくなります。食物繊維には便をやわらかくする作用がある水溶性食物繊維、便の量を増やしたり腸の蠕動を活発にする不溶性食物繊維があります。
- 運動量が減少することで腸の蠕動運動が弱くなります。
2疾患的要因と便秘
- 甲状腺機能低下症:腸の蠕動運動が低下します。
- 糖尿病:神経障害を起こし腸の蠕動運動が低下します。
- 脳血管障害:活動量の低下により腸の蠕動が低下します。
- パーキンソン病:自律神経の機能が低下し腸の蠕動が低下します。
- 脱水症:摂取水分が不足すると便が硬くなります。
- 低カリウム血症:腸管の運動麻痺をきたします。
3薬剤と便秘
いくつかの薬剤は、排尿に関与する神経や筋肉の機能に影響し、便秘を引き起こすことがあります1。代表的なものを表1に示します。特に抗コリン作用のある薬剤は注意が必要であり、薬物有害事象や相互作用を減少させることで患者の生活の質の向上をめざす「日本版抗コリン薬リスクスケール」が開発されました2。
表1 慢性便秘症を起こす薬剤
横にスクロールしてご覧いただけます。
分類 |
一般名 |
薬理作用、特性 |
消化管疾患治療薬 |
アトロピン、ブチルスコポラミン |
抗コリン作用 |
抗ヒスタミン薬 |
クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジン、セチリジン |
抗コリン作用 |
睡眠薬 |
トリアゾラム、エスタゾラム、フルニトラゼパム |
抗コリン作用 |
抗不安薬 |
アルプラゾラム |
抗コリン作用 |
抗精神病薬 |
定型抗精神病薬(クロルプロマジン、プロクロルペラジン、レボメプロマジン)、非定型抗精神病薬(クロザピン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール) |
抗コリン作用 |
抗うつ薬 |
三環系抗うつ薬(クロミプラミン、イミプラミン、アミトリプチリン)、四環系抗うつ薬(ミアンセリン、マプロチリン)、SSRI(フルボキサミン、パロキセチン)、SNRI(デュロキセチン、ベンラファキシン)、SARI(トラゾドン)、NaSSA(ミルタザピン) |
抗コリン作用 |
抗パーキンソン病薬 |
レボドパ製剤(レボドパ、レボドパ含有薬)、ドパミン受容体作動薬(プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン) 抗コリン薬(トリヘキシフェニジル、ビペリデン、ピロヘプチン、マザチコール) |
中枢神経系のドパミン活性の増加やアセチルコリン活性の低下作用 抗コリン作用 |
オピオイド |
モルヒネ、オキシコドン、コデイン、フェンタニル、メサドン、トラマドール |
消化管臓器からの消化酵素の分泌抑制作用、蠕動運動抑制作用、セロトニンの遊離促進作用、抗コリン作用 |
降圧薬 |
カルシウム拮抗薬(アムロジピン、ニフェジピン) |
カルシウムの細胞内流入の抑制で腸管平滑筋が弛緩 |
抗不整脈薬 |
ジソピラミド |
抗コリン作用 |
利尿薬 |
抗アルドステロン薬(スピロノラクトン、エプレレノン)、ループ利尿薬(フロセミド、アゾセミド) |
電解質異常に伴う腸管蠕動能の低下作用、体内の水分排出促進作用 |
制酸薬 |
水酸化アルミニウムゲル、スクラルファート |
消化管運動抑制作用 |
鉄剤 |
硫酸鉄、クエン酸第一鉄、フマル酸第一鉄 |
収斂作用で蠕動を抑制 |
吸着薬 |
沈降炭酸カルシウム、セベラマー |
排出遅延で薬剤が腸管内に堆積し、二次的な蠕動運動を阻害 |
陰イオン交換樹脂 |
ポリスチレンスルホン酸カルシウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム |
排出遅延で薬剤が腸管内に堆積し、二次的な蠕動運動を阻害 |
制吐薬 |
グラニセトロン、オンダンセトロン、ラモセトロン |
5-HT3受容体拮抗作用 |
止痢薬 |
ロペラミド |
末梢性オピオイド受容体刺激作用 |
日本消化管学会編:便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症.南江堂,東京,2023.を参考に作成
2.どのような状況を見たときに、便秘を疑うのか
高齢者の便秘は若年者の便秘とは異なり、単に便が出ないというだけでなく、下記のようなさまざまな症状を伴うことがあります。また、高齢者は自覚症状を的確に訴えることができない場合があるため、排泄記録の確認や身体所見のていねいな観察が重要です。
3.便秘への対応(疑った場合に、どうすべきか)
1注意すべき病態
便秘のなかで最も注意すべき病態が腸閉塞です。若年層と比較して症状がわかりにくく重症化しやすいため、より早期の診断と治療が重要です。
発熱、意識混濁、
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