2024年12月公開
5.排尿障害
1.排尿障害の基本知識
高齢者の排尿障害は、加齢による生理的変化に加え、さまざまな要因が複合的に関与して発生することが多くみられます。このため、加齢による生理的変化、排尿にかかわる機能、注意すべき疾患や薬剤について整理することが重要です。
1生理的変化と排尿機能
- 中枢神経や末梢神経の機能の低下により、膀胱や尿道の収縮・弛緩を調節することが難しくなります。
- 腹筋や骨盤底筋、膀胱平滑筋や尿道括約筋の筋力低下により、尿を十分に排出することができなくなります。
- 膀胱容積の減少や膀胱の弾力性の低下により、膀胱内に尿を十分にためることができなくなります。
- 性ホルモンの減少により、下部尿路機能が障害を受ける可能性が示唆されています1。
2疾患的要因と排尿機能
- 前立腺肥大症:尿路を圧迫し、尿を排出しにくくなります。
- 脳血管障害:橋排尿中枢が障害されると、排尿反射(膀胱内圧の上昇に合わせて排尿を促すはたらき、つまり十分に蓄尿することができる機能)が起こりにくくなります。
- パーキンソン病:大脳基底核の変調により排尿反射の閾値が低下し、また前頭葉機能の低下から排尿反射が抑制できなくなるため、頻尿や尿失禁を起こしやすくなります。
- 認知症:膀胱や尿道の機能に異常がない場合であっても、尿意を感じても伝えられない、トイレの場所がわからない、トイレで排泄することを忘れてしまう、排泄自体の意味が理解できなくなる場合があり、尿失禁を引き起こします。
- 糖尿病:神経障害を起こし膀胱の収縮や弛緩のバランスが崩れます。
- 尿路感染症:膿尿や血尿が膀胱内に堆積すると、尿路を閉塞し十分に排尿できなくなることがあります。
3薬剤と排尿機能
いくつかの薬剤は、排尿に関与する神経や筋肉の機能に影響し、排尿障害を引き起こすことがあります。代表的なものを表1に示します。
表1 排尿機能に影響する薬剤例
横にスクロールしてご覧いただけます。
分類 |
一般名 |
薬理作用、特性 |
気管支拡張薬 |
テオフィリン |
排尿症状(抗コリン作用、膀胱平滑筋弛緩作用) |
抗ヒスタミン薬 |
クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン |
排尿症状(抗コリン作用) |
抗うつ薬 |
三環系抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリン)、四環系抗うつ薬(ミアンセリン、マプロチリン)、SNRI(トレドミン)、SARI(トラゾドン) |
排尿症状(中枢性の排尿反射抑制作用、抗コリン作用、α1受容体刺激作用) |
抗パーキンソン病薬 |
抗コリン薬(トリヘキシフェニジル、ビペリデン、ペルゴリド) |
排尿症状(抗コリン作用) |
抗精神病薬 |
定型抗精神病薬(クロルプロマジン、レボメプロマジン)、非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール) |
排尿症状(ドパミン拮抗作用) |
抗不整脈薬 |
ジソピラミド、メキシレチン、ピルシカイニド |
排尿症状(抗コリン作用) |
鎮痙薬 |
ブチルスコポラミン |
排尿症状(抗コリン作用) |
消化性潰瘍治療薬 |
スルピリド |
排尿症状(抗コリン作用、排尿筋弛緩作用) |
オピオイド |
モルヒネ、オキシコドン、コデイン、フェンタニル |
排尿症状(オピオイド受容体を介した排尿反射の抑制) |
過活動膀胱治療薬 |
プロピベリン、ソリフェナシン、トルテロジン、イミダフェナシン、フラボキサート |
排尿症状(抗コリン作用) |
抗めまい薬 |
ジフェニドール、ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合薬 |
排尿症状(抗コリン作用) |
抗肥満薬 |
マジンドール |
排尿症状(神経終末におけるモノアミンの再吸収阻害作用) |
総合感冒薬 |
サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩配合顆粒 |
排尿症状(抗ヒスタミン薬含有による抗コリン作用) |
抗認知症薬 |
ドネペジル |
蓄尿症状(アセチルコリンエステラーゼ阻害作用) |
前立腺肥大症治療薬 |
α遮断薬(タムスロシン、ナフトピジル、シロドシン、ウラピジル) |
蓄尿症状(α1受容体遮断作用) |
降圧薬 |
α遮断薬(ドキサゾシン、プラゾシン) |
蓄尿症状(α1受容体遮断作用) |
抗アレルギー薬 |
ケトチフェン |
蓄尿症状(炎症誘発作用) |
中枢性筋弛緩薬 |
エペリゾン、チザニジン |
蓄尿症状(外尿道括約筋弛緩作用) 排尿症状(膀胱平滑筋弛緩作用) |
抗不安薬 |
ジアゼパム |
蓄尿症状(外尿道括約筋弛緩作用) 排尿症状(抗コリン作用、排尿筋弛緩作用) |
日本泌尿器科学会編:男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン.リッチヒルメディカル,東京,2017.を参考に作成
2.どのような状況を見たときに、排尿障害を疑うのか
排尿障害には、表2に示したように排尿症状、蓄尿症状、排尿後症状があります。高齢者は自覚症状を的確に訴えることができない場合があります。下腹部膨満や重度の便秘などを機に排尿障害に気づくこともあり、排泄記録の確認や身体所見のていねいな観察が重要です。
表2 排尿障害を疑う症状
横にスクロールしてご覧いただけます。
排尿症状 |
・尿勢低下 ・尿線途絶 ・排尿遅延 ・腹圧排尿 |
蓄尿症状 |
・昼間頻尿 ・夜間頻尿 ・尿意切迫感 ・切迫性尿失禁 ・腹圧性尿失禁 ・溢流性尿失禁 |
排尿後症状 |
・残尿感 ・排尿後尿滴下 |
3.排尿障害への対応(疑った場合に、どうすべきか)
1注意すべき病態
排尿障害のなかで最も注意すべき病態が尿閉です。尿閉は尿路感染症の原因となるだけでなく、
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