2021/12/16
「口から食べる」ことは、単に栄養摂取において大切なだけではなく、患者QOL(Quality of Life:健康寿命)にも大きくかかわっている。加齢や疾患によって咀嚼や嚥下が難しくなってきた方でも、食べる楽しみをできるだけ長く維持し、さらに誤嚥も予防できるような食支援が大切である。それに欠かせないのが、摂食嚥下リハビリテーションだ。
この度、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の研究グループ(戸原玄・教授ら)では、65歳以上の要介護高齢者に対する摂食嚥下リハビリテーションとして、離床・外出を促し、QOLを高めるような心理的アプローチが有効である可能性を示した。
これまでにもQOLと摂食嚥下機能の関係についての研究は行われており、ADL(Activity Daily of Living:日常生活動作)が自立した高齢者でも思ったように食事を摂れなくなるとQOLが低下することが知られていた。一方、ADLが自立していない要介護高齢者については、QOLと摂食嚥下機能の関係は十分に検討されていなかった。また、離床(*)して活動したり、外出したりする人は、QOLが高い傾向にあることが知られているものの、離床・外出と摂食嚥下機能との関連についての研究はこれまで行われていなかった。
このような背景を受け、同研究グループでは、摂食嚥下機能向上の訓練の実施が困難な要介護高齢者を対象に、離床や外出等の活動性およびQOLと摂食嚥下機能との関連を明らかにすることを目的に研究を行った。
その結果、ADLや併存疾患によらず、①離床時間が長い、②外出をする、③QOLが高い場合には、摂食嚥下機能が良い傾向であることが明らかになった。その理由としては、長時間の離床が摂食嚥下に適した安定した姿勢保持につながったり、摂食嚥下関連筋群の筋力維持や、食べる意欲にも関連していると考察されている。また、外出して好きな場所へ行ったり、自発的に社会とつながることで、認知機能低下の防止が期待できること、慢性的なストレスからの解放によって脳機能が健全に保たれ、摂食嚥下機能にも関連したことなどについて述べられている。
ADLが自立していない要介護高齢者に対しては、摂食嚥下機能向上のための訓練の実施自体が難しいケースもみられる。そのようななかで、活動性やQOLを高めるといった、日常の過ごし方を考慮したアプローチが摂食嚥下機能に関連する可能性が示唆されたことは、摂食嚥下リハビリテーションの選択肢を広げたと言えるだろう。
*1 ベッドから離れて過ごすこと。
詳しくは、下記の東京医科歯科大学Webサイト参照
「要介護高齢者の活動性、QOLおよび摂食嚥下機能の関連」
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56259_ext_04_6.pdf
【関連ページ】
●現場でできる!摂食嚥下ケア
https://www.almediaweb.jp/swallowing/swallowing-care/
●現場で役立つ、すぐに実践できる「口から食べるためのサポート」
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