2023/5/16
東京医科歯科大学と神奈川歯科大学附属病院の研究グループは、嚥下障害をもつ患者を対象とした研究によって、睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられる「タング・ライト・ポジショナー(TRP)」を1日8時間以上、2か月間に渡り装着することで、舌圧が向上したことを報告した。
TRPは、上顎の歯列を包み込む形状のマウスピースである。当初は歯科矯正治療後の後戻りをなくすために開発された製品だが、装着後に患者の呼吸が改善したことから、現在では睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられている。これまでの研究で、口蓋部のアーチが舌を刺激することで舌の位置が改善することが明らかになっていたが、TRPの装着が舌の筋力に与える影響については研究されていなかった。そこで、同研究グループでは、嚥下障害患者に対してTRPを装着することで、舌の力の指標である舌圧が改善されるかについて調査した。
本研究では、2020年9月から2021年9月の間に、東京医科歯科大学病院の摂食嚥下リハビリテーション科を受診した人のうち、嚥下障害をもっていて研究への参加に同意した8名の男性を対象とした。全員のTRPを作成し、2か月間毎日8時間以上装着してもらい、使用前後で舌圧、オーラルディアドコキネシス、鼻腔吸気流量および超音波による嚥下関連筋の検査を行った。
各項目の検査方法としては以下のとおり。
【舌圧】舌圧計を用いて、専用の風船を口の中に入れ、舌と上顎で思いっきり押しつぶしてもらう際の圧力を計測した。計測値は舌筋の強さの指標として用いた。
【オーラルディアドコキネシス】5秒間にできるだけ多く「パ」、「タ」、「カ」を発音してもらい、それぞれ口唇、舌前方、舌後方の巧緻性を計測した。
【鼻腔吸気量】息を最大まで吐き出した後、勢いよく空気を鼻から吸い込む速度を計測した。
【超音波検査】舌の厚みおよびオトガイ舌骨筋の断面積を計測した。
また、全員の身長、体重、日常生活動作、既往歴を聴取し、診療録から嚥下障害の重症度を参照した。
2か月間の介入前後の検査項目を比較したところ、舌圧、鼻腔吸気流量、オトガイ舌骨筋の断面積の3項目について増加を認め、そのうち舌圧については統計学的に有意な差を認めた。これにより、TRPの装着によって舌圧が向上することが示唆された。
舌圧の向上には、これまでもさまざまな訓練が提唱されてきている。一例として、舌圧子を舌に軽く押し当てて、それを舌で押し返してもらうなどが挙げられるが、このような訓練は能動的なトレーニングを必要としており、自発的に舌を動かせない人にとっては困難なものであった。TRPは取り外しができる装置であり侵襲度が低く、気軽に使用することができる。また、夜間の就寝中などに装着しておくことで効果が期待できることから、新たな舌のトレーニング法として期待できる。
同グループは、今後の研究において、より長い期間の装着によりTRPがどのような影響を及ぼすかについてさらなる検討を進める、と結んでいる。
詳しくは、東京医科歯科大学Webサイト(2023年3月16日<プレスリリース>「タング・ライト・ポジショナーの舌圧に対する影響を解明」)参照
【関連ページ】
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