2023/11/21
名古屋大学の研究グループは、入院患者の身体機能と院内転倒発生との関係を明らかにしたと発表した。
転倒は地域在住高齢者の約30%が毎年経験しており、転倒をきっかけにADLの大幅な低下や、要介護状態の進行につながることも多い。また、入院中は疾病から生じる廃用症候群や、不慣れな環境などが転倒リスクとなり、転倒の発生率が高くなっている。転倒予防に関する最新のガイドラインでは、すべての入院高齢者、あるいは医療専門家によって転倒のリスクがあると特定された若年成人に、個別化された単独または多職種による転倒予防戦略を提供することを推奨している。
転倒リスクは、投薬状況、認知機能、心血管機能障害とともに、身体機能障害によって予測可能とされている。同研究グループは、身体機能評価にあたって、サルコペニア診断基準にも用いられているSPPB(Short Physical Performance Battery)に注目した。SPPBは、立位バランス、歩行速度、下肢筋力テスト(5回立ち座りテスト)で構成されたアセスメントツールで、地域高齢者を対象とした研究によって、転倒、入院、死亡のリスクを含むさまざまな転帰を予測可能であることが報告されている。一方で、入院中の患者においても同様に予測可能かどうかは不明であった。
そこで、同研究グループは、転倒リスクの高い患者においてSPPBを用いて下肢機能を評価し、足の健康度が低い患者の院内転倒リスクはどのくらいかを明らかにすることを目的に、研究を実施した。
対象としたのは、同大学医学部附属病院において転倒発生数が多い病棟(主に老年内科および神経内科)に入院した患者、1,200例。リハビリテーション開始時にSPPBを用いた評価を行い、その点数をもとに、評価不可から正常の5群に分類した(0点:評価不可、1-3点:重度低下、4-6:中等度低下、7-9点:軽度低下、10-12点:正常)。そして、対象患者の入院経過を調査し、入院中に転倒が発生したかどうかを記録・解析した。
入院期間中、101例の転倒が発生した。転倒発生とSPPBの評価値を解析したところ、SPPBの結果が正常の患者の転倒リスクを1.0とした場合、重度低下の患者の転倒リスクは8.8倍にのぼることが明らかとなった。また、軽度低下の患者では1.4倍、中等低下の患者では4.7倍と、評価不可の患者でも6.2倍と、いずれも転倒リスクが高くなっていることがわかった。
さらに、SPPBの点数低値は、退院時の日常生活動作障害、長期入院、自宅退院困難、入院中死亡と関連していることが明らかとなった。また、年齢、性別、併存疾患、服薬状況、転倒転落アセスメントシートなどの従来知られている予測因子のみから院内転倒のリスクを予測する場合と比較して、これらの因子に「SPPB」という情報を追加して予測すると、院内転倒発生の予測に有用であることがわかった。
以上の結果から、転倒リスクが高い患者において、身体機能低下を認めた患者は転倒リスクが高いこと、従来の方法に加えてSPPBを用いた身体機能評価を実施することは、患者の入院後経過の予測に重要であることが明らかとなった。
本研究により、従来の医学的な評価に加えて客観的に下肢機能を評価することは、患者の入院後経過の予測に重要であることがわかった。これは、リスクの層別化や、各患者に適した介入法の選択に役立つことが考えられる。今後、これらの患者に対して、どのような介入を行うべきか、介入を行うことで転倒発生率が低下するかを明らかにする研究へと発展することが期待される、と同研究グループは結んでいる。
詳しくは、名古屋大学のWEBサイト参照
・名古屋大学研究成果発信サイト「足の健康度は転倒リスクの高い患者における入院中の転倒発生を予測する ~下肢筋力、バランス能力、歩行能力の総合的な下肢機能評価が重要~」(2023年9月5日)
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/09/post-558.html
【関連ページ】
●転倒に関するステートメントと介護予防
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/2109/
●転倒リスクに気づき、転倒を予防する
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/1911/
●「ディアケア プレミアム」
転倒予防に役立つ評価・運動と、転倒防止のための移動介助(実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat02/theme002/index.html
×close
©ALCARE Co., Ltd.