2023/12/19
高齢者の難聴が転倒発生のリスクを高めることは、これまで数多くの疫学研究からも知られている。しかし、難聴によって転倒が多く引き起こされる背景メカニズムについては不明であった。
東京都健康長寿医療センター研究所の研究グループは、聴覚情報が制限された場合に、障害物に近づく際の歩幅の調整が乱れるのに加え、障害物の跨ぎ越し動作が大きくばらつくようになることを明らかにしたと発表した。
同研究グループでは、聴覚情報が障害物回避行動に果たす役割の解明を目的に、実験を行った。若年者を対象とし、擬似的に難聴環境を作り出し、転倒が起こりやすい動作である障害物跨ぎ越し時の動作を調べ、加齢性難聴が転倒リスクを引き上げる背景について検討した。この際、聴覚が障害物回避行動に果たす役割をより明確にするため、足元の視覚情報も合わせて実験的に操作することとした。
聴覚情報制限条件として、対象者にイヤーマフを装着することで、擬似的に難聴環境を作り出した。比較条件としては、穴のあいたイヤーマフを用いている。
また、視覚情報制限条件としては、足元が見えなくなるフレームを持ち、比較条件として、足元が見えるフレームを持つこととした。
これらの条件下で、対象者には6.5m先にある15cmの高さの障害物に近づいて跨ぎ越してもらい、その際の歩き方や、足が障害物を越えるときの足上げの高さを測定した。
障害物を越えるときの足上げの高さについて、足元の視覚情報が制限された場合に先導脚の足あげの高さが高くなること、聴覚情報が制限された場合は先導脚の足あげの高さのばらつきが大きくなることがわかった。
また、障害物に接近した際の歩行動作にも変化がみられた。足元の視覚情報と聴覚情報の両方が制限された場合に、障害物接近時の歩幅のばらつき(変動係数)が大きくなることがわかった。このような運動の変動性増加は転倒リスクを高める一因であり、実際に聴覚情報制限によって障害物回避が困難になる例も確認された。
以上のことから、聴覚情報が遮断されることにより、一連の障害物回避動作のばらつきが大きくなること、その傾向は足元が見えない状況下で顕著に現れることがわかった。
本研究結果より、聴覚情報には運動を安定させる(動作のばらつきを統制する)働きがあることが示唆された。研究グループでは、『このような聴覚情報制限にともなう運動の変化が加齢性難聴者の転倒リスクを高めていると考えると、「耳の聞こえにくさ」に対する早期かつ適切な対応が傷害予防の観点から重要であるといえる』と結んでいる。
医療・介護従事者は、本人や家族との会話のなかで、耳の聞こえについての話が出たり、聞こえにくさが出てきたことに気づけることもあるだろう。難聴はコミュニケーションへの影響だけではなく転倒リスクのひとつにもなることを理解し、早めに転倒予防策を講じたり、補聴器等の提案や検討についても意識しておきたい。
詳しくは、東京都健康長寿医療センター研究所Webサイト(2023年10月18日<プレスリリース>「—難聴の高齢者が転倒しやすいのはなぜか?—聴覚情報が制限されると円滑な障害物の回避行動が阻害されることが明らかに」)参照
【関連ページ】
●転倒に関するステートメントと介護予防
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/2109/
●転倒リスクに気づき、転倒を予防する
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/1911/
●「ディアケア プレミアム」
転倒予防に役立つ評価・運動と、転倒防止のための移動介助(実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat02/theme002/index.html
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