2024/3/12
誤嚥性肺炎は令和4(2022)年の人口動態統計において死亡原因の第6位となっており、高齢者の肺炎の8割が誤嚥性という報告もある。主たる要因は口腔内細菌の誤嚥であり、誤嚥性肺炎の発症予防に口腔ケアが効果的なことや、摂食嚥下障害もまた肺炎の発症リスクを高めることが、医療・介護領域で広く知られてきている。
これまで、誤嚥性肺炎と診断された入院中の患者を対象とした前向きコホート研究は少なく、入院時の口腔環境が院内転帰にどのように影響しうるかは、十分に明らかになっていなかった。入院中の歯科介入は、入院日数短縮や退院時の経口摂取確立に寄与することが報告されており、口腔健康状態が治療効果に与える影響を明らかにすることで、口腔評価、介入の有用性の明確化、そして医科歯科連携の推進につながると考えられる。
東京医科歯科大学と順天堂大学の研究グループは、高齢誤嚥性肺炎患者を対象に、入院時の口腔健康状態、嚥下状態がその後の院内転帰に及ぼす影響、また、口腔健康状態の入院中の変化について、前向きコホート研究を行い、入院時の口腔健康状態が悪いほど、入院日数が長いことを明らかにした。
本研究で対象としたのは、2021年4月から2022年3月の間に順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターに入院し、誤嚥性肺炎と診断された65歳以上の患者89名。口腔健康状態(OHAT*1)、嚥下機能(FOIS*2)、その他基本情報として年齢、性別、肺炎重症度、臨床虚弱度を記録した。また、本研究期間は、週に一度特定の歯科医師が、看護師など多職種への口腔衛生管理指導を行った。
*1 OHAT:口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛の8項目をそれぞれ0、1、2の3段階で評価し、数値が高いほど口腔健康状態が不良。
*2 FOIS:経口摂取度の7段階のスケール。7は食形態の調整必要なし、嚥下機能良好。1は経管栄養で、一切の経口摂取がない。
本調査における入院時OHATの中央値は7であり、高齢肺炎患者を対象とした先行研究と比較しても、口腔健康状態はかなり不良であることがわかった。中央値で患者を高OHAT群と低OHAT群の2群に分け、それぞれの群のOHATの経時変化を調査したところ、入院時高OHAT群は週ごとにスコアが改善していき、8.3から5.3となった。
また、継続的に口腔評価できた患者内訳から、高OHAT群が占める割合は、入院時52.8%、3週間後60%となり、長期入院の患者は入院時のOHATが高い傾向があった。
入院日数の平均値は、低OHAT群35.6±27.5日、高OHAT群51.7±42.1日であり、かなりばらつきがあり有意差はないものの、高OHAT群のほうが約16日も入院期間が長かった。さらに重回帰分析による詳細な解析を行った結果、入院時OHATは入院期間と有意に関連すること、OHATスコアが1上がると入院日数が5.51日延びることが示された。同様に、入院時FOISは退院時FOISと有意に関連していた。
これらより、入院時の簡易な口腔、嚥下機能評価が、入院期間や退院時の経口摂取度を予測する因子となりうることがわかった。
本研究によって、入院時の簡易な口腔・嚥下機能評価が、高齢誤嚥性肺炎患者の院内転帰の有用な予測因子であることが示された。口腔健康状態は、継続した口腔衛生管理によって改善していく。また、う蝕や義歯の状態は、入院時だけではなく日頃からの定期的な口腔検査・治療の状況に強く依存する。本研究は、入院時に早期退院をめざすことはもちろん、入院前、退院後も含め手、誤嚥性肺炎に対するより効果的な医科歯科連携を模索するうえでも重要な知見になると期待される、と、同研究グループは結んでいる。
入院患者への口腔ケアは、看護師のかかわりも大きいケアとなる。口腔健康状態が入院期間と関連することを念頭に置き、日々の適切な口腔ケアの実施と、必要に応じた専門科との連携が重要になることを意識したい。
詳しくは、下記の東京医科歯科大学Webサイト参照
「高齢誤嚥性肺炎患者では、入院時の口腔健康状態が悪いほど、入院日数が長い」【山口浩平 講師】
https://www.tmd.ac.jp/press-release/20240115-1/
【関連ページ】
●誤嚥性肺炎を“仕方ない”と思わないで!
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/1907/
●ムリなく ムダなく できる! 口腔ケア
https://www.almediaweb.jp/oral/oral-001/
●「ディアケア プレミアム」
OHAT(オーハット)による口腔アセスメントの進め方と口腔ケアの実際(実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat05/theme004/index.html
●「ディアケア プレミアム」
口腔ケア 基本の“き” (実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat05/theme002/index.html
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