2024/5/21
東北大学の研究グループは、口腔状態と認知機能の相互作用を除外した、より適切な統計学的手法を用いた評価によって、①歯の喪失が認知症のリスクを上昇させること、②咀嚼困難や口腔乾燥といった口腔機能低下も認知症のリスクを上昇させることを明らかにした。
これまでの研究では、歯を多く失った高齢者では認知症リスクが高くなることがわかっている。口腔機能と認知機能は互いに影響し合っているため、この影響を考慮しない分析では、これらの関連の強さが実際よりも大きく見積もられている可能性があった。そこで、本研究では、2時点で口腔状態と認知機能を測定した“周辺構造モデル”という分析方法を用いて、これらの相互作用による影響を除外したうえで、口腔状態と認知機能との関連を明らかにした。
本研究で対象としたのは、2010年実施のJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study;日本老年学的評価研究)調査に参加した65歳以上の高齢者、約3万8000人。2010年時点および2013年時点における口腔状態(歯数、咀嚼困難・むせ・口腔乾燥の有無)を調査するとともに、9年間の追跡研究を行い、2013年から2019年までの認知症発症の有無と口腔状態との関連を調べた。
対象者の認知症の発症率は、100人年あたり2.2であり、歯数の少ない人および咀嚼困難・むせ・口腔乾燥など口腔機能が低下している人で認知症の発症率が高かった。
周辺構造モデルを用いた分析で口腔状態と認知機能の相互作用による影響を取り除いた解析でも、以下のとおり口腔状態と認知症リスクとの関連が示された。
・歯数19本以下:認知症リスク1.12倍
・歯が0本:同1.20倍
・咀嚼困難:同1.11倍
・口腔乾燥:同1.10倍
なお、むせと認知症との間には、統計学的に有意な関連は示唆されなかった。
本研究より、口腔状態と認知機能との相互作用による影響を除外した手法を用いた評価によって、歯数の減少や咀嚼困難、口腔乾燥が、認知症リスクの上昇に関連することが示唆された。
研究グループは、「歯の喪失だけでなく、咀嚼困難や口腔乾燥などの口腔機能の低下は高齢者によくみられる健康問題です。歯の喪失を予防するだけではなく、口腔機能の低下予防のための適切な治療やリハビリテーション、服薬の調整などにより、認知症のリスクを低下できる可能性があります」と結んでいる。
近年では「オーラルフレイル」という言葉も浸透しつつあり、フレイルやサルコペニア、低栄養などの要因としても注目されている。口腔ケアに携わることの多い看護・介護職は、ぜひ“口の健康”により関心をもち、患者・療養者の口腔機能の維持のために適切な口腔ケアや患者・家族教育に取り組んでほしい。
詳しくは、以下の東北大学Webサイト参照
・東北大学報道発表 Press Release No: 411-23-43「歯の喪失・咀嚼困難・口腔乾燥があると認知症のリスクが10~20%高くなる」(2024年3月発行)
https://www.dent.tohoku.ac.jp/news/file/20240326_02.pdf
【関連ページ】
●ムリなく ムダなく できる! 口腔ケア
https://www.almediaweb.jp/oral/oral-001/
●ナースが使いこなしたい!OHAT(オーハット)による口腔アセスメントの実際と口腔ケアの効果
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/2209/
●「ディアケア プレミアム」
OHAT(オーハット)による口腔アセスメントの進め方と口腔ケアの実際(実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat05/theme004/index.html
●「ディアケア プレミアム」
口腔ケア 基本の“き” (実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat05/theme002/index.html
×close
©DEARCARE Co., Ltd.