2025/5/13
広島大学の研究チームは、歯周病の病原細菌が歯周炎病巣から毛細血管へ侵入し、血液循環を経由して左心房に感染することで、左心房の線維化や心房細動の発症に関与することを発見したと発表した。歯周炎の治療が心房細動の予防や心房線維化の予防につながる可能性が期待される。
心房細動は最も頻度の高い不整脈であり、心不全や脳梗塞、認知症の原因となり、健康寿命を大きく損なう可能性がある。これまでの研究から、歯周炎と心房細動の関係が着目されているものの、そのメカニズムは未解明であった。
同研究チームは、病原性の高い歯周病原細菌の1つであり、非アルコール性脂肪肝やアルツハイマー病など他の全身疾患との関連が明らかになっているPorphyromonas gingivalis(P.g)に着目し、P.gの心房への血行性感染と心房線維化、心房細動との関連を調べた。
歯周炎病巣からの歯周病原細菌感染を模倣した動物モデル(マウス)を用いた実験において、マウス左心房組織中からP.g DNAが検出された。また、そこに至る感染経路については免疫組織化学染色法を用いて観察を行い、歯周炎病巣の毛細血管から侵入したP.gが全身循環を経由して左心房心筋に至る様子が可視化された。
さらに、P.g感染マウスでは心房組織の線維化の進行がみられ、心房連続刺激で高頻度に心房細動が誘発された。組織中の遺伝子発現を調べた結果、P.gが左心房局所で心房筋細胞に作用し、線維化にかかわる分子を活性化することで、線維化の進展や心房細動の発症に関与するメカニズムが考えられた。
また、心房細動患者の心臓手術時に治療のために切除された左心耳試料を用いて、左心房組織に感染するP.g菌数を定量化・解析したところ、臨床的な歯周炎の重症度(歯周ポケット上皮面積、出血を伴う歯周炎症表面積)と、左心房へのP.g感染に正の相関がみられた。歯周炎組織では、ポケット上皮潰瘍部から侵入したP.gが、炎症で拡張した毛細血管から血液循環に侵入し、左心房に到達、感染することが示唆される。
左心房のP.g菌数は線維化の重症度とも相関しており、心房細動患者においてP.gが左心房の線維化に影響しているとみられた。
これらの研究成果は、歯周炎が心房細動の是正可能な危険因子であることを示す重要なエビデンスとなる。歯周炎の予防・治療による歯周組織や全身炎症の抑制に加え、P.gの侵入遮断による左心房線維化の進展抑制、心房細動の発症・持続化の予防につながる可能性が考えられる。第一にはセルフ口腔ケアや定期的な歯科受診による歯周炎治療が重要と考えられるが、今後、P.g自体やその産物を標的とした特異的治療が、心房細動の新規治療となる可能性も考えられる、と、研究チームは結んでいる。
在宅や施設の療養者は、定期的な歯科受診が困難であったり、セルフケアが不十分となりがちな方も多いだろう。歯科受診については訪問歯科診療等との連携、そして、日々の口腔ケアについては、看護職・介護職が適切に実施・サポートすることで、総合的に歯周病リスクを低減させる役割が期待される。
また、口腔ケアの際には口腔内をよく観察し、OHAT-Jのように簡便な評価ができるアセスメントツールを活用することで、必要なケアや専門職との連携につなげることも大切だ。
口腔衛生状態を正常に保つことが、全身状態の維持にもつながるという意識をもち、日々のケアに取り組まれたい。
詳しくは、下記広島大学のWebサイトを参照
【研究成果】歯周病の病原菌が心房細動(不整脈)に関与-歯周炎治療が心房細動や心房線維化の予防につながる!-
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/89457
【関連ページ】
●ムリなく ムダなく できる! 口腔ケア
https://www.almediaweb.jp/oral/oral-001/
●ナースが使いこなしたい! OHATによる口腔アセスメントの実際と口腔ケアの効果
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/2209/
●「ディアケア プレミアム」
口腔ケア 基本の“き” (実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat05/theme002/index.html
●「ディアケア プレミアム」
“在宅あるある”を解決 生活に取り入れる口腔ケア(実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat05/theme003/index.html
●「ディアケア プレミアム」
OHATによる口腔アセスメントの進め方と口腔ケアの実際(実践ケア動画)
https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat05/theme004/index.html
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