ナースができる!「食べられる」機能の見極めと摂食嚥下ケア
:嚥下調整食を使った食事摂取の進め方
群馬パース大学 看護実践教育センター
認定看護師教育課程 専任教員
板垣 卓美
2022年7月公開
食べるための大前提として、口腔衛生が保たれていることが大切です。
唾液の嚥下を数回繰り返していくと、口腔から唾液が相当減少した状態になります。その状態から嚥下反射を生じさせようとしてみると、どんなに強く「嚥下反射よ、起これ!」と指令を出しても、嚥下反射は生じません。前に述べたように、嚥下反射を生じさせるためには意思の介在が必要です。しかし、意思の力だけでは嚥下反射は生じません。嚥下するものがないと、言い換えれば嚥下反射誘発部位から嚥下するものが知覚されないと、嚥下反射は生じません。当たり前のことのようですが、このことの理解はとても大切です。
図1は嚥下反射誘発部位を示します。そして、図2はこれら嚥下反射誘発部位が汚染物で被膜されている状態を示しています。こうした状態では、嚥下反射誘発部位に飲食物や唾液が触れても知覚されにくく、嚥下反射が生じにくい状態といえます。こうした状態では、いつまでも口腔のものを飲み込まない(飲み込めない)現象や、嚥下反射が生じる前に口腔のものが不随意に喉に流れ落ちて誤嚥してしまうこと(嚥下前誤嚥といいます)につながります。
青枠内が、口蓋に付着する汚染物。舌ばかり見ていると、こうした口蓋の汚れは見過ごされがち。
この患者さんは口腔のあらゆる部位が汚染している。
嚥下のみならず、咀嚼にとっても口腔衛生は大切です。人はテレビや雑誌を見ながらでも咀嚼でき、目で確認しなくても食塊形成の完了を判断して、摂食嚥下につなげることができます。これは主に、口腔の知覚神経が咀嚼中の食塊の状態をモニタリングしているからこそ可能なことです。しかし、図2のような口腔の状態ではどうでしょうか。こうした状態では、咀嚼による食塊形成の情報が正しく知覚されにくくなるため、食塊形成が不十分なまま嚥下することにつながりやすく、その結果、誤嚥しやすくなってしまいます。
口腔衛生を評価するとき、例えば臨床でも舌苔の有無は比較的しっかりと観察され、舌ブラシなどでケアされていることが多い印象があります。しかし硬口蓋(舌で触れる上あごの骨ばった一帯)の観察とケアはどうでしょうか。硬口蓋は知覚が密なため、咀嚼による食塊形成の知覚情報を得るために大切な役割を果たしています。つまり、舌だけではなく硬口蓋をきれいにすることが、食塊形成にとって大切です。硬口蓋は意識しなければなかなか観察しにくい部位ですが、乾燥した分泌物と古くなった粘膜などが絡まった汚染物が堆積し、とても汚染しやすい特徴があります。
経口摂取している人であれば、硬口蓋の旧上皮は食物との摩擦でこそげ落ち、食物とともに嚥下されることで粘膜の新陳代謝が保たれています。しかし、経口摂取していないなど、主な栄養摂取ルートが経口以外で設定されている人は、食物と硬口蓋との摩擦が生じる機会が著しく減少することで旧上皮が堆積し、それが汚染物質に変化して、硬口蓋の汚染が進行しやくなります。そのため、食べていない人の口ほど汚れやすいのです。
こうした場合、経口摂取の訓練も含め、食べる前には粘膜ブラシを使用した粘膜ケアを実施し、咀嚼や嚥下しやすい口腔衛生状態を確保できるようにするとよいでしょう。口腔の容積に占める割合は、おおむね歯が3割、粘膜が7割とされています。そのため「歯みがき」では「口腔ケア」として不十分であり、「粘膜ケア」が十分できてはじめて口腔ケアといえるでしょう。その点を意識してみてください。
また、口腔衛生の評価を個々人の主観に頼ると評価内容や評価項目に一貫性がなく、見落とし箇所が増えてしまう傾向にあります。口腔衛生はOAG(Oral Assessment Guide、図3)やOHAT(Oral Health Assessment Tool、図4)などの測定ツールを用いて評価し、評価点数の推移とケア方法の是非をスタッフ間で共有・検討していくとよいでしょう。
ティーアンドケー株式会社,資料ライブラリー,口腔ケアの情報,医療関係者向け,口腔アセスメントガイド(OAG)より引用
https://www.comfort-tk.co.jp/library/%E5%8F%A3%E8%85%94%E3%82%A2%E3%82%BB%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%EF%BC%88oag%EF%BC%89/
東京医科歯科大学大学院 地域・福祉口腔機能管理学分野ホームページ:OHATについて.より引用
http://www.ohcw-tmd.com/research/ohat.html
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