Part5摂食嚥下リハビリテーションの進め方
(間接訓練、直接訓練)

群馬パース大学 看護実践教育センター
認定看護師教育課程 専任教員
板垣 卓美

一部会員限定
ページあり!

2022年7月公開

1.間接訓練と直接訓練

(1)「転移性」とは何か

リハビリテーションには、その練習が目的の動作を向上させるために果たす効果を指す「転移性」という概念があります。剛速球を投げたいピッチャーが腕の筋トレを行うことは必要かもしれませんが、どんなに腕の筋肉が発達しても、ピッチング自体を練習しないとけっして速い球が投げられるようにはなりません。目的の動作を獲得するためには、その動作に必要なパーツを鍛えることに意義はありますが、最終的には目的の動作そのものを行うことが、その動作を獲得するために最も効果的な訓練になります。つまり、咀嚼するには咀嚼自体を行うことが、嚥下するには嚥下自体を行うことが最も転移性の高い訓練ということになります。

(2)間接訓練と直接訓練とは

間接訓練とは、「飲食物を用いない摂食嚥下の訓練」を指します。上述した腕の筋トレの例えがこれに該当します。飲食物を用いないために誤嚥のリスクは低いですが、転移性は直接訓練に及びません。

直接訓練は、「飲食物を用いる摂食嚥下の訓練」を指します。上述したピッチング練習の例えがこれに該当します。飲食物を用いて実際に嚥下するため、誤嚥のリスクは高まりますが、転移性の面から訓練効果は高いと言えます。直接訓練としては、食形態の調整、一口量や食器具など食べ方の調整、姿勢調整、複数回嚥下など飲み込み方の工夫(「代償嚥下法」といいます)」などが挙げられます。これらについては他項で触れていますので、ここでは主に間接訓練について取り上げます。

間接訓練と直接訓練のバランスをいかに取っていくかが大切であり、直接訓練のリスクを鑑みながら、どこかで直接訓練を行っていく必要があります。そのために、間接訓練と直接訓練の開始基準を押さえましょう。

(3)間接訓練と直接訓練の開始基準

間接訓練と直接訓練の開始基準を表1に示します。

表1 間接訓練と直接訓練の開始基準

  1. 1バイタルサインや全身状態が安定していること
    特に脳血管疾患の急性期の場合、基礎疾患の進行がないことが必要です。
  2. 2リスク管理体制が整っていること
    誤嚥が生じたときの吸引など、何らかのトラブルが生じた際に対応できる体制が必要です。
  3. 3意識レベルが清明であること
    JCS一桁が望ましく、少なくとも食事の際にはこの状態になっていることが必要です。
  4. 4口腔衛生が保たれていること
    特に硬口蓋や舌など、食物の物性を感知する部位の汚染は除去されていることが必要です。
  5. 5食べたいという意思があること
    何よりも本人の意思が重要です。意思と嚥下反射はつながりがあるので、その点からも重要です。
  6. 6嚥下反射があること
    RSSTやSSPT、改訂水飲みテストなどで嚥下反射の有無を確認しましょう。
    嚥下反射によって、少なくとも唾液は誤嚥せず嚥下できていることの確認が必要です。
  7. 7十分な咳ができること(できれば随意咳)
    咳反射(咳テストまたは簡易咳テスト)と咳の強さ(PCF:peak cough flow)を評価できると望ましいです。
  8. 8著しい喉頭や舌運動の低下がないこと
    これらの器官の著しい運動障害は、嚥下を困難にします。
  • ①~⑧は直接訓練の開始基準、①②は間接訓練の開始基準

次の項から、主な間接訓練である、①喉頭挙上訓練、②舌の筋力増強訓練、③咀嚼訓練(ガーゼガム訓練)について具体的に解説していきましょう。

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