2022/5/10
栄養療法は大きく分けると、“経腸栄養”と“静脈栄養”に大別される。栄養療法の基本は「腸が使えるならば腸から投与せよ」というもので、経腸栄養では消化管での消化・吸収や消化管免疫への刺激などが期待できる、より生理的な栄養摂取に近い投与経路である。もちろん、「口から食べる」経口栄養が最も理想的な栄養摂取法だが、それができない患者には適切な栄養療法が必要である。近年、栄養療法の比重は静脈栄養から経腸栄養へと移りつつあるようだ。
経腸栄養と静脈栄養の効果の比較では、東京女子医科大学が約14,000の入院患者を対象に行った調査が興味深い。この調査は、入院中の絶食状況と、入院期間および転帰(退院、入院の継続、死亡など)との関連について前方視的観察研究を行ったものだ。本研究では、入院中の絶食期間が長くなればなるほど、在院日数の延長、体重減少、血液学的パラメータの低下、死亡率の上昇がみられることが証明されたという。
さらに、連続10食以上の絶食を有した患者について、絶食期間の中央値が10日未満の患者群(中期絶食群、静脈栄養使用率12%)と、10日以上の患者群(長期絶食群、同使用率63%)に分けて比較したところ、長期絶食群のほうがカロリー・タンパク質・脂質を多く摂取していたにもかかわらず、全体として予後は不良であったことも明らかになった。この結果は、静脈栄養に比べ経腸栄養のほうに優位性があることを示している。
これらの結果から、経腸栄養の推進によって、自宅退院率の向上や死亡率の低減など、患者の生活の質や予後の向上への効果があることが明らかとなったとされる。さらに、同グループでは病院収益の面から見た経腸栄養の利点にも言及している。在院日数が短縮できれば、病床の稼働率が上がり病院収益にも寄与することから、病院としても経腸栄養を主体とした栄養療法を進めることによる利点があるという。
先に述べたように、栄養療法の基本的な考え方として、消化管機能が正常であれば経腸栄養を選択し、経腸栄養が不可能な場合や、経腸栄養のみでは必要な栄養量を投与できない場合には、静脈栄養の適応とされている(*1)。腸を使わない期間が長くなると、腸粘膜の萎縮によってバリア機能が低下し、バクテリアルトランスロケーションなど全身性の感染症のリスクが高まることが、近年知られてきている。
今回の研究は、長期絶食による影響を科学的に調査・研究したものであり、栄養療法を選択するうえで大変貴重な成果と言える。同研究グループは、「私立大学附属病院31施設の管理栄養士が協力して、世界的にも貴重なデータを出したことが、この研究報告の大きな意義の一つです。今回参加の管理栄養士の皆様と共に課題解決に向けた取り組みを更に次世代に向けてステップアップしていきたいと思っています」と結んでいる。
この調査結果は非常に興味深いが、経腸栄養か静脈栄養かの二者択一ではなく、どちらにより適応があるかという臨床栄養的な判断こそが求められていると思われる。今回の診療報酬改定でも、栄養介入に関する項目は高く評価されつつある。適切な栄養管理の重要性は、臨床の場では十分に認識されているようだ。
詳しくは、下記の東京女子医科大学Webサイト参照
「【プレスリリース】経腸栄養療法の優位性が判明。経静脈栄養に比べ退院率向上、死亡率低減」
https://www.twmu.ac.jp/upimg/files/20220330_PressRelease_eiyoukanri.pdf
【参考文献】
*1 日本静脈経腸栄養学会編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.照林社,東京,2013.
【関連ページ】
●ナースが知っておきたい 栄養の基本と栄養サポートの進め方
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●胃瘻(PEG)トラブルを防いで、的確な栄養管理を行う 在宅での胃瘻管理もふまえて
https://www.almediaweb.jp/nutrition-top/nutrition-002/
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https://dearcare.almediaweb.jp/home/cat03/theme002/index.html
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