Part1 
ストーマケアで持ちたい「認知症では?」の視点

事例:高齢のストーマ保有者における“異変”

執筆・編集 安藤嘉子先生、片岡ひとみ先生、土田敏恵先生、渡邉光子先生、濵元佳江先生

2019年5月公開

事例:Aさん

ストーマケア指導中に、
過去の同じできごとを
何度もくり返し話す…

事例:Bさん

ケアの変更や装具変更を
提案・指導しても、
変更せずに元のケアに
戻ってしまう…

【観察】「認知症?」と気づくためのポイント

事例のAさんやBさんに出ている徴候は、“高齢者にはよくあること”ではあります。そもそも高齢者に対しては、あまり大きなケア変更を提案しないようにしていますが、それでも皮膚障害や漏れを繰り返すと、多少はアクセサリー(皮膚保護剤/材など)やストーマ装具の形状変更を提案・指導することがあります。しかしその変更に対して対応できないことがよくあります。Bさんは健忘の程度がひどい状態ですが、最近、自分でも「もの忘れがある」という自覚があるというお話でした。

ほかにも、ストーマ保有者の“ちょっとした異変”として、今までは整った衣服を身につけていたのに衣類に排泄物が付着しはじめて清潔が保持できなくなったという例があります。あるいはストーマの交換日を忘れたり、排泄口を留めるのを忘れてしまった、あるいは表情が硬くなったり、ストーマ外来の予約の時間に遅刻しだしたり、といった場合もあります。

【アセスメント】ストーマケアにおける認知機能障害

これらの事例を通じて、「ケア内容を忘れる」「予約時間に来ない」「指導された体験そのものをすっかり忘れる」といった症状は記憶障害であり、アルツハイマー型認知症の認知機能障害図11図22)にあたるのではないかと考えました。

一般の患者さんであれば「トイレに行っていない」「失禁する」といった排泄処理の異常で認知症の徴候に気づくことができますが、ストーマ保有者では排泄経路が異なり、また長年ストーマケアを行っている方では、「装具交換」「トイレの排泄処理」はずっと刷り込まれてきた手続き記憶として行動できてしまいます。そのため、家族や周囲の人にも認知症と気づかれにくいことがあります。

しかしストーマ保有者では代わりに、「ストーマ装具の排泄口の留め忘れ」「排泄物で衣類が汚れる」「漏れによる臭いに気づかない」「交換周期を気にしなくなる」という形で認知症症状が現れることがあります。これは社会的認知の障害であり、また「トイレの排泄物の処理行動はできても、ストーマ管理という目的に対して正しくできていない」という遂行機能の障害にも似ているのではないかと推察しました。

また、繰り返し同じことを話す、表情の硬さといった症状も、行動・心理症状(BPSD)における抑うつではないかと考えました。

図1 
アルツハイマー型認知症における認知機能障害の特徴

(文献1より引用)

図2 
認知機能障害と行動・心理症状(BPSD)

(文献2より引用)

〈引用文献〉
1.島橋誠:認知機能障害のアセスメントとケア.日本看護協会 編,認知症ケアガイドブック,照林社,東京,2016:76.
2.鷲見幸彦:認知症の定義,概要,疫学.日本看護協会 編,認知症ケアガイドブック,照林社,東京,2016:6.
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